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モナコインへの攻撃、なぜ成功? 小さな「アルトコイン」襲う巨大なハッシュパワー(2/3 ページ)

国産仮想通貨「モナコイン」が攻撃を受けた理由や、そのブロックチェーンの仕組みについて解説する。

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攻撃者の手口は?

 具体的には、比較的少ない承認数の取引所に仮想通貨を入金し、法定通貨へ交換し出金。その後巨大な「ハッシュパワー」(計算能力)でマイニングし、本来捨てられるはずだった短かい分岐鎖を最も長くすることで、先ほどの取引所への入金をなかったことにするという手口だ。

 結果として、取引所は何も受け取らずに法定通貨だけ引き出されてしまったというのが今回のモナコイン事件だ。ブロックチェーンとしては仕様通りに動いただけだが、取引所がその仕様を見誤ったために被害を受けたともいえる。

 ビットコインゴールドの事件は「51%攻撃(※)による二重支払い」というやや異なる攻撃手法だったが、ハッシュパワーによる攻撃で鎖を分岐させ、同じコインを取引所やウォレットなどに二重に送った。結果として取引所で交換・出金することで利益を得たという点はモナコインと変わらない。

(51%攻撃……全体のハッシュパワーの50%以上を攻撃者が保有することで、不正な取引を正当化したり、正当な取引の記録を拒否したりできる攻撃手法)


Keychainのジョナサン・ホープCEO

 ブロックチェーンを活用した認証プラットフォームを開発するスタートアップ企業Keychainのジョナサン・ホープCEOは「取引所は今後承認数を上げ、どんなコインを扱うかも考えなければならないだろう」と今後すべき対応を述べた。

 これらの攻撃は一般ユーザーから仮想通貨を盗むものではないが、「取引所以外の被害としてマイナー(採掘者)も挙げられる」と杉井CEOはいう。

 マイナーはブロック承認のために難しい計算問題をコンピュータを使って解いている人たち(およびそのプログラム)のこと。いち早く答えを見つけて他の参加者に共有した人は「仮想通貨による報酬」をもらえるため、それを動機付けとしてマイナーたちは計算資源を仮想通貨に投入している。

 しかし、モナコインやビットコインゴールドに対して行われた攻撃により、本来そのまま長く続いていくはずだった鎖をなかったことにされたため、そのブロックを採掘したマイナーの報酬もなくなってしまった、ということだ。

小さなアルトコインを襲う巨大なハッシュパワー

 なぜ、今回モナコインやビットコインゴールドでハッシュパワーによる攻撃ができてしまったのか。

 巨大なハッシュパワーを持つマイナーによって、合意形成アルゴリズムにPoWを採用しているブロックチェーンへの攻撃が可能になることは、理論的には以前から知られていたことではあった。

 PoWはビットコインが初めから採用している合意形成アルゴリズムで、ビットコインでは今までハッシュパワーによる攻撃も成功したことがない。

 これは仮想通貨コミュニティーにおいてビットコインが最大であり、参加マイナー数・ハッシュパワーも最大であることから、突然誰かが市場の大半を占めるハッシュパワーを持つのが極めて困難ということにある。

 ビットコインという1つのシステムに対してはこのようにPoWがよく機能しているのに対し、「小さいコミュニティーができてきて、そちらに移って攻撃できる(可能性がある)と分かったのが今回の事件」だと杉井CEOはいう。

 複数の小さなコミュニティーがあると、なぜ攻撃できるようになるのか。それを理解するため、マイニングについて簡単に説明する。

 18年現在、マイニングに用いられる計算機にはCPU(中央処理装置)、GPU(画像処理装置)、FPGA(プログラム可能なゲートアレイ)、ASIC(特定用途向け集積回路)という4種類がある。初期はCPUによる計算が主流だったが、特定のマイニング計算に特化した計算機であるASICや、さまざまなマイニング計算を高速に行えるGPUによるマイニングが現在は主流になっている。


現在はASICとGPUによるマイニングが主流

 ASICはハッシュパワー、電力効率ともに最も優れている代わりに、特定のマイニングアルゴリズムしか対応できない。例えばビットコインをマイニングするASICなら「SHA256」というアルゴリズムしか計算できず、ビットコインから派生した「ライトコイン」をマイニングするASICなら「Scrypt」しか計算できない。

 GPUはハッシュパワーや電力効率でASICには及ばない一方、汎用的に多くのマイニングアルゴリズムを計算できる。仮想通貨開発側がASICマイニングを嫌う場合、アルゴリズムにASIC耐性のあるものを実装することもあるため、そういった仮想通貨ではGPUによるマイニングが主流となる。

 例えば、GPUをたくさん持つマイナーがあるメジャーなアルトコイン(※)をマイニングしていたとする。しかし、市場でそのコインの価値が下がってきたため収益性が悪くなってきた。このようなとき、マイナーは「収益が上がる別のアルトコインをマイニングしよう」とアルゴリズムを切り替えられる。

 切り替え先のアルトコインがあまり有名ではないものであった場合、このマイナーは切り替え前のコインに比べて大きな割合のハッシュパワーを、切り替え先で持つことになる。

(※アルトコイン……ビットコイン以外の仮想通貨の総称)

 ASICでも同様のことが起こる。例えば「Scrypt」しかマイニングできないASICでも、ライトコインの代わりに「ドッジコイン」など同じマイニングアルゴリズムを採用しているアルトコインへの切り替えはできる。

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