AI時代に生き残る人たち 私たちは“AI人材”を目指すべきなのか(3/3 ページ)
最近よく聞く「AI人材」とは何なのか。政府も企業も世界で戦えるAI人材育成に力を入れている。
私たち大勢には無理なのか?
私がお勧めしたいのは、世界的な定義で見たところのAI人材にはなれなくても「一般IT人材」と呼べる程度の実力を身に付けることです。以下の階層で言えば、上から3階層〜4階層目になるでしょう。
「Python書けます!」「それってExcelのデータ分析タブで十分ですよね?」レベルですが、逆に言えばその程度でも十分に「一般IT人材」に含まれるのではないでしょうか。
多くの人の場合は一からプログラミング言語を覚えたり、統計学や機械学習の勉強を始めたりしなければいけないかもしれません。しかし、今では「Aidemy」「Udemy」などの学習サービスを使って基礎的な理論は学べる環境があります。ちなみに私もド文系で社会人になってからプログラミングを理解したタイプです。
要は、少しでも自分にお金と時間を投資して、ITに関する知識やスキルを身に付ける、それだけでも良いのではないでしょうか。
そんな簡単に勉強しろよって言うなよ、と思う人はいるかもしれません。例えば、金銭的な事情により大学への進学を諦めた人たちがいます。
少し古いデータになりますが、07年9月に東京大学大学院教育学研究科が4000人の高校3年生を対象に大規模な調査を行い、「高校生の進路追跡調査」と題したレポートを作成しています。その中で、両親年収別の「高校卒業後の予定進路」というグラフが紹介されています。
「せめて大学には行って欲しい」という親の思いはありつつも、両親の年収が下がるほど予定進路に大学と答える割合が下がり、就職と答える割合が上がります。親の「年収」で子供の進路が固定される可能性が示唆されています。
時間の都合、お金の都合で勉強ができないまま社会人生活を過ごすとなると、待ち受けるシナリオで一番恐ろしいのは「デジタル失業」です。
「『AIが仕事を奪う』への疑問 いま、“本当に怖がるべきこと”は」の記事でも触れた通り、AIは職業にひもづく仕事やタスクを一変する可能性を秘めています。
もしもデジタル失業してしまい、新たな職業に就こうとしても「あなたAI触れないでしょ?」と言われ、低賃金の仕事に就かざるを得なくなる……そうすると、ますます格差は固定されないでしょうか。
明日生きるのも大変な人たちが増えないように、お金をかけてITに関する知識やスキルを身に付ける必要があるのに、デジタル化の波により大きな矛盾が生じてしまうのです。
だからこそ私はベーシックインカム(※政府が全ての国民に対して、最低限の生活を送るために必要な額の現金を定期的に支給する政策)を導入して、お金と時間にゆとりを持つべきだと考え、AI時代のベーシックインカム論を唱える駒澤大学の井上智洋准教授にもインタビューをさせていただきました。
「AI人材」という年に数千人生まれるか生まれないかの人材を育成するのも大事ですが、「一般IT人材」や「デジタル失業の危機にさらされる人たち」に目を向けるのも大事ではないでしょうか。それができるのは政府だと考えます。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
編集部より:著者単行本発売のお知らせ
人工知能に仕事を“奪われる”、人工知能が“暴走する”、人工知能に自我が“芽生える”――そんなよくありがちな議論を切り口に、人工知能の現状を解説してきた連載「真説・人工知能に関する12の誤解」が、このたび、書籍「AIは人間の仕事を奪うのか? 〜人工知能を理解する7つの問題」として、C&R研究所から発売されました。
連載を再編集し、働き方、ビジネス、政府の役割、法律、倫理、教育、社会という7つの観点から、人工知能を取り巻く問題を理解できる構成に仕上げています。この本を読めば、人工知能の“今”が大体分かる――連載を読んでいた方も、読んでいなかった方も手に取っていただければ幸いです。本書の詳細はこちらから。
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