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「個別の11人事件」は現実に起こせるか 「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」のゾクっとする話アニメに潜むサイバー攻撃(4/7 ページ)

そう遠くない未来、現実化しそうなアニメのワンシーンをヒントに、セキュリティにもアニメにも詳しい内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の文月涼さん(上席サイバーセキュリティ分析官)がセキュリティ対策を解説します。第3回のテーマは「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」です。

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F: それを考えるには、まずミナシアンのSNSへの書き込みの中の用語を少し変えてみましょう。

 「民衆による革命はここに始まれり! 民主主義者と民衆の糧を貪り食う資本主義企業に鉄槌を! 革命の英雄○○万歳!」

K: そのまんま、革命の志士の言葉になりましたね。

F: そうです。「個別の11人」の話を見ると「童貞かよ(笑) ギャグか?」となり、トロントの事件を見れば「非モテがキレた」となるかもしれません。しかし、実はこの2つの話の本質は「爆発しそうな因子を見つけて着火し、テロを起こさせる」という類型です。従って、難民排斥でも、宗教的な衝突でも、どんな内容を当てはめても成立します。ISISのようなイスラム過激派でも同じです。

 その目的は「社会不安を煽ること」と「それに対処しない政府への信頼を毀損(きそん)すること」そして「国民を分断する攻撃」なわけです。

 これまでの連載でも度々例示して恐縮ですが、2016年の米国大統領選挙では、他国により、「海外への軍事介入」「難民」「宗教」「銃を持つ権利」をテーマとして、SNSで対立する両者を煽り、時に衝突させるという攻撃が行われました。

 日本でも最近は、SNSで旧来の国民的寛容さを損なうギスギスした風潮がまん延していますよね。意図的に対立を煽る者もいる。意図を持った者が行っている攻撃かどうかは分かりません。攻殻機動隊シリーズのヒロイン、草薙素子の言葉を借りるなら「ゴーストがささやいた」といったところでしょうか。

 SNSや掲示板にはbotが存在し、現状は野放しに近い。それが「発火させるために煽ることに特化した攻撃」だったら? それはもうテロを起こすシステムの演習なのではと考えてしまいます。

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(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

K: しかしゴーダはなぜそこまで手の込んだことを……。単にテロを引き起こさせたければ、ばれないようにゴーストハックして(記憶を改ざんし)直接行動を起こさせるという手もあるでしょうに。

F: そう。すごく手の込んだことを、芝居がかった形で行っています。「個別の11人」ウイルスだけがクローズアップされていますが、実はゴーダはその前にもウイルスを放流しています。発症条件(2)の「個別の11人」という本は、そもそも存在しないのに、存在すると人々に思わせるウイルスです。

K: 確かに……。しかしなぜか「個別の11人」の本に関するイメージは、ぼやけていましたよね。

F: 幻の一冊といわれたり、発行部数は20冊のみといわれていたのに、現物を持っていたという12人が集合したり。初版かどうか確かめていることから複数版存在することをにおわせたり、実物の本を手に入れて保管していた本棚の位置まで示す者がいたり……。

 これらは、幻の「個別の11人」という本が存在していたということ「だけ」を埋め込むウイルスの影響ですね。発露の仕方は、感染した者自身それぞれが生み出した幻想で、「個別の11人」という本はこういうものであってほしいという願望なわけです。その上で、ウイルスを発症させる要素として電子媒体版をネットに流している。物理媒体を探し回って見つけられなかった者はこれに飛びつき発症する。このあたりにも、ゴーストハックして直接テロを実行させるのではなく、芝居がかった「革命をプロデュースする」というゴーダの性格が表れています。ただ、それは民衆の間に漠然とした不安を醸成するという面では、単発の「テロだけ」よりは裾野が広く効果があるわけです。

K: こういった攻撃を今、日本で起こそうとしたらどうなるんでしょう。

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