効果は年間数十億ドル? 「物流×ブロックチェーン」の可能性:特集・ITで我慢をなくす「流通テック」(2/2 ページ)
ブロックチェーンを物流に? IBMやNTTデータが考える物流の課題とブロックチェーンによる可能性とは。
解決困難な「ブルウィップ効果」 克服できるかも?
サプライチェーンには、「ブルウィップ効果」と呼ばれる現象がある。末端消費者の需要変動がサプライチェーンをさかのぼるにつれて増大して伝わってしまう現象で、間違った需要予測を基に引き起こされる。結果として事業者は過剰在庫を抱えてしまう。
予測を間違えてしまう原因の一つが、リアルタイムの需要と発注数の乖離(かいり)だ。ブロックチェーンでリアルタイムの需要が分かれば、より需要に適合した発注、生産が可能になり、ブルウィップ効果も克服できるかもしれない。
海運貿易大手とベンチャー設立 年間数十億ドルのコスト削減見込む
このように、ブロックチェーンに物流の取引を記録して共有することにはさまざまなメリットが見込める。一方、これまで全く、あるいは一部にしか開示していなかった自社データを開示することに抵抗を持つ企業もあるだろう。
IBMは、企業はブロックチェーンの利用にあたって「所有データの公開範囲や、他社に役立つデータの開示で自社が利益を得る方法」を検討すべきだとしている。
ブロックチェーンによる効果を「年間数十億ドルのコスト削減」と見込む企業もある。IBMと海運貿易大手のデンマークMaerskが設立したジョイントベンチャーのMaersk TradeLensだ。
Maersk TradeLensは2018年1月に設立(当時は社名未発表)。これまでに紹介したようなブロックチェーンのメリットにより、輸送の遅延や不正を大幅に削減できるとしている。貿易用のブロックチェーンプラットフォームはIBMとMaerskの2社で共同開発し、実際に利用できるようにするという。
8月10日に社名を発表し、ブロックチェーンプラットフォームの名を「TradeLens」とした。すでに、94の企業が参画中あるいは参画予定だという。
NTTデータもコンソーシアム立ち上げ 国内企業巻き込む
物流にブロックチェーンを活用する取り組みは、日本国内でも進みつつある。
NTTデータは2017年8月、国内の貿易関係13社とともに「ブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携基盤実現に向けたコンソーシアム」を立ち上げた。
コンソーシアムに参加するのは、川崎汽船、商船三井、双日、損害保険ジャパン日本興亜、東京海上日動火災保険、豊田通商、日本通運、日本郵船、丸紅、みずほフィナンシャルグループ・みずほ銀行、三井住友海上火災保険、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行と、国内のそうそうたるメンバーだ。
このコンソーシアムの目的は、大きくはIBMと同様で、従来ファクシミリやメールの書面で行われてきた事務手続きの効率化や迅速化、利便性の向上を目指すとしている。
NTTデータは2016年7月に、輸出入業者と銀行の間、また銀行間での信用状取引にブロックチェーン技術を用いる実証実験を実施。2017年4月には輸出業者と保険会社の間で、保険証券にブロックチェーンを用いる実証実験も行っている。
これらを踏まえた上で、貿易業務全体へのブロックチェーン技術適用を実証すべく、貿易関係会社の参加を広く仰いだのが、上記のコンソーシアムだ。2018年3月までの活動予定となっており、取り組みで得られた成果の発表が待たれている。
ブロックチェーンは「紙の信用」をデジタル化する
ここまで、国内外の代表的な「物流×ブロックチェーン」事例を見てきた。いずれも紙のやりとりにかかる時間やコストに課題を感じ、研究を進めていることが分かる。
思えば、ブロックチェーンを用いた初のプロダクトであるビットコインも、「紙」幣に換わる価値の移転手段だった。
仮想通貨が、デジタル通貨、あるいはデジタルゴールドとして成功したのかどうか判断するにはまだ早いにせよ、仮想通貨とともに産声を上げたブロックチェーン技術が「紙が持つ信用」のデジタル化に向いているのは当然といえば当然なのかもしれない。
物流に限らず、紙がかさばる現場へのブロックチェーン活用を模索する流れは、今後加速するのではないかと筆者は予測している。
身の回りがフルデジタル化される未来には、信用や証明を担う基幹技術としてブロックチェーンが当たり前に導入されているのかもしれない。
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