「運がよかった」 “AIが考えた”日清の新商品 甘くない開発の舞台裏(2/2 ページ)
日清食品が9月3日に発売した「カレーメシ」の新商品は、AI(人工知能)を駆使して生まれた一品だ。約2400万通りの食材の組み合わせから、AIがレシピを選定した。
「とんでもないレシピ」ができた
このようにして条件が絞られ、データサイエンティスト側から日清食品に提案されたレシピのたたき台は2種類。材料と分量はAIが選んだが、「ガーリックは最初に炒める」といった調理手順は、日清食品側が検討した。
うち一品は「とんでもないレシピだった」と金子さんは笑う。材料は、レモン汁、ゆずの絞り汁、チリパウダー、鷹の爪、コチュジャンなど。カレーとはあまり縁のない調味料も並んだ。具材をヨーグルトなどに漬け込む工程もあったが、「異様に辛いカレーだった」という。「“本格感”はあったが、マニアックな味だった」(金子さん)
もう一品は、トマトとチキンをベースにしたものだった。ここから「特定のスパイスが異様に効きすぎている」(金子さん)といった試食の感想を基に、材料の分量を調整していった。日清食品とデータサイエンティストのせめぎ合いがあったという。
「データサイエンティストに確認をとり、絶対に必要なものは入れるし、どう考えても間違っているものは省いた」(金子さん)。算出されたデータに基づき、影響が出ない範囲で調整を加えたという。
また、さらに材料の組み合わせに深みを持たせるため、先ほどの処理で抽出した具材と、相性がいい具材を追加した。具体的には、材料ごとにどういったカテゴリーの料理(肉料理、魚料理など)に使われていたかを分析し、ある食材に対して、似た料理に使われている“距離が近い具材”を算出した。例えば、ツナとパスタ、ミルクとチョコレートは近い――といった具合だ。そうして、既にレシピにある材料と距離が近いものを加えた。
「最終的に商品化しないといけない中、例えばキャビアのように、調達が難しい材料が入っていなかったことがラッキーだった。危なかった」(金子さん)
「大きく外れてはいないのでは」
昨年10月にプロジェクトがスタートし、レシピが完成したのは今年2月。5月ごろまで細かい調整を繰り返し、商品化の承認を得るため経営陣に提案したところ、反応は上々だったという。
「他の商品とコンセプトが異なるのは『AIを使って考えた』こと。ユーザーから好まれる味になるだろうし、話題性もある。意図は明確だった」(金子さん)
カレーメシは、2016年に一度リニューアルしている。実は、以前「トマトカレーメシ」という商品もあり、当時はシリーズの中で2番目の売れ行きだった。そうした実績から、トマトとチキンをベースにした新商品は「大きく外れてはいないのでは」と金子さんは話す。
とはいえ、これからも商品開発にAIを取り入れるかは定かではないという。「カレーメシは、理解不能な新しさをコンセプトにしているので、AIというコンテンツがピッタリだったのでチャレンジした。もし売れれば……」。日清食品の挑戦は続く。
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