「開発の丸投げやめて」 疲弊するAIベンダーの静かな怒りと、依頼主に“最低限”望むこと:これからのAIの話をしよう(覆面AIベンダー編)(5/5 ページ)
AI(人工知能)開発を丸投げするクライアントの「いきなり!AI」に苦悩するAIベンダー。データサイエンティストのマスクド・アナライズさんに、AI開発現場の実態と、依頼主に最低限望むことを聞いた。
「例えば松本さんの書かれた「誤解だらけの人工知能」を読めば、現時点でAIが人間より優れている面や得意分野が限られていると十分に分かります。自分で調べた限りでは、社会人が読むべきAI本はそこまで多くない。noteでも「社会人に役立つ人工知能本三冊しかない説」をまとめましたが、書店で売っている本を読むだけでも違います。
『ITは何も分かりません、どんなデータがどれだけあるかも分かりません、でもあなたの会社で企画立案から開発導入まで全てやって下さい』では、ダメですよ。もちろん、難しいところは分からなくて当然で、手を動かさないと理解できないことも無数にあります。そこは専門家に任せればいいんです」
IT業界の長い慣習の末、社内の情報システム担当やSIerが、良くも悪くも“IT駆け込み寺”のような存在になってしまっているようです。マスクドさんの話を聞いていると、駆け込む前に、まずは最低限の勉強をしておく必要がありそうだと感じます。
自分事として解決しないといけないという問題意識を持てるかどうか。これはAIに限った話ではないはずです。例えば、従来のコンピュータをはるかに上回る計算力を持つとされる量子コンピュータが仮に実現した場合も「同じことが起こる」とマスクドさんは考えます。
「量子コンピュータの導入がどうやって業務に結び付いて、企業の売上と利益を生み出すかを考えるのは、SIerだけじゃ無理なんです。業務と売上の関係を分かっている人が、量子コンピュータ導入の地図を作ることができる。『とりあえずやれ』だと何も進まない」
日本のAI開発現場が抱える問題から、IT業界に根深く残る課題まで、熱く語り続けるマスクドさん。筆者は最後に、みんなが聞きたかったことを質問してみました。
「マスクド・アナライズさん……お前、平田だろ!」
「オレは平田じゃねーよ!」
そう言うと、マスクドさんは大勢のサラリーマンたちが駅に向かう闇夜の街中に消え去っていきました。「こんなしょっぱい試合ですいません!」と聞こえたような気がしましたが、それは風のうなり声にも感じました。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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