人工知能で「ヒット曲」難しい理由 ”良い音楽”は科学できるのか:これからのAIの話をしよう(音楽編)(5/5 ページ)
人工知能による自動作曲サービスがいくつも登場し、誰もが気軽にAIを使った楽曲の自動生成ができるようになった。今の自動作曲システムの実力や、AIはヒット曲を生み出せるのかなどを、自動作曲システム「Orpheus」の開発者に聞いた。
「ここ5年ぐらいの学術的な動向を見ていると、そうした要望にようやく応えられるかな、という感じがします。例えば、学習データをそれぞれの作曲者ごとに用意しておけば、それぞれにチューンした作曲ができるのではないかという意見があります。実際、私もギター曲で自動生成をする際、エリック・クラプトンやジミー・ペイジを、それぞれ分けて学習をすると、なんとなくその人っぽいメロディーを生成できます。まぁ、何とかできているのですが、当時はそれが一番難しかった」
18年現在、Orpheusに限らず”〇〇風”の自動作曲が無数に作られて、YouTubeにもどんどん動画が上がっています。研究者として「この人のタッチはすぐにまねできそうだなぁ」と思う作曲家は誰かとぶしつけに聞いてみると、深山さんは「メソッドが確立している音楽はまねしやすい。沖縄風にしたければ、琉球音階を使えばいい」と答えました。
「曲単位でメロディーやリズムを変える人は、そもそも“誰々風“と言われても定義が難しい。言い換えると、そういう作曲家ほど、AIに負けない作曲家とも言えます。まねしにくいですから」
Orpheusには、自動生成した曲を音声合成に歌わせる機能もついていました。
「歌声を合成して流すんですが、いろんな歌声が欲しいという要望がありました。結構大変かなと思ったんですが、歌声生成エンジンにいろんなパラメータがあったので。技術サイドから見ると同じモデルをいろんなパラメータで流しているだけなんですが、聴く側からすれば歌声が増えたと思います。これは自動生成の強みですね」
こうした歌声生成エンジンは、平原綾香さんの「Jupiter」のように広い音域を表現しないといけない楽曲を、裏声まで含めて自在に使い分けられるのでしょうか。深山さんは「裏声らしさまでは言い切れませんが、自由自在に声を変えられましたね」と胸を張ります。
ヒット曲の自動生成は難しい
幅広い音楽表現を探究しているOrpheus。そこには膨大な量のデータがたまっているはずです。そうしたデータを解析することで、ヒット曲を自動生成することはできないのでしょうか。
「データ分析からヒット曲を生み出す“ヒット曲サイエンス“は難しいといわれています。有名なアーティストが歌っているなど、ヒットするには曲以外の要素が大きすぎるからです。こういうメロディーが多いよねという意見はありますが、じゃあそういうメロディーを使えばヒット曲が生まれるかといえば、そんなことはありません。すごく平均的なものができるでしょう」
「作曲家の先生からは、基本はあまり考えずに作ってもいいが、どこか1か所は”狙い”を入れなさい、と言われます。きっと全てを狙おうとすると平凡な曲になってしまうんでしょうね」
(9日公開の後編に続く)
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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