企業がAIを使いこなすための5原則「MELDS」とは?
アクセンチュアが、報道関係者向けに「企業のAI活用のコツ」を説明した。同社が独自に考えた5つの原則「MELDS」とは。
「AI(人工知能)を使いこなしている企業は、5つの原則を守っている」――アクセンチュアの保科学世さん(デジタル コンサルティング本部 マネジング・ディレクター)はそう話す。保科さんは、12月12日に開催された報道関係者向け発表会で、企業がAIを活用するときのポイントを解説。同社が独自に調査した結果、AIで成功している企業(特に経営者)は5つのポイント「MELDS」を抑えていることが分かったという。
MELDSは、アクセンチュアが独自に定義したフレームワークで、(1)M:マインドセット、(2)E:エクスペリメント(実験)、(3)L:リーダーシップ、(4)D:データ、(5)S:スキル、を示す。同社はAIを「認識、理解、行動、学習を通じて、人間の能力を拡張するシステム」と定義。保科さんは「日本はAI活用で経済成長する余地が大きいが、他国に比べてAIとの協働に対して意識変革や行動が遅れている」と指摘した上で、MELDSをベースとしたAIと人間の協働の重要性を強調した。
経営者が知るべき「5つの原則」
順を追って説明しよう。
まずは、経営陣のマインドセットについて。AIと人間が協働するには、従来の考え方とは異なるアプローチで仕事に取り組む必要がある。単に特定の作業をマシンで自動化するのではなく、AIと人間で業務を分担し、それぞれの能力に適したタスクを行うべきとしている。
実際に製造業の現場では、「コボット」と呼ばれる「協働ロボット」(Collaborative Robot)が急速に普及しつつあり、工場の生産ラインで人間とロボットが肩を並べて作業するようになっている。
次にエクスペリメント(実験)だ。保科さんは「AI時代は、他社の成功事例をまねる戦略に意味はなく、自社で試行錯誤する必要がある。実験の大部分は失敗に終わるため、むしろミスや失敗を奨励しなければいけない」と説明する。
また保科さんが「日本企業が特にできていない」と指摘するのが、リーダーシップの問題。「AIの責任ある使用にコミット」(保科さん)し、AI技術の倫理的、道徳的、法的な影響を常に検討しなければならない。それは、アルゴリズムの責任説明や偏見の排除などにも通じるものだ。最近では米Amazon.comが、AIを活用した人材採用システムで女性差別の欠陥が見つかったとし、運用を取りやめることが話題になっていた(関連記事)。
そして、AIを活用するには多種多様で膨大なデータの準備が欠かせない。データはただ集めればいいのではなく、それぞれの目的に合った適切な準備が必要だ。保科さんは「データは鮮度も大事。バイアスがかからないように気を付けつつ、迅速にデータを提供することが求められる」と話す。
最後に、スキルについて。AIと人間が協働する時代は、「これまで以上に人間が必要とされ、人間中心に業務プロセス改革を考えなければいけない」(保科さん)という。AIを設計・開発し、適切なデータを用意して訓練するという一連の作業には特別なスキルが必要になる。アクセンチュアは「今後はAIデータトレーナーやAIのチューニング担当者など新たな雇用もたくさん生まれる」と予測している。
AI時代をけん引するリーディングカンパニーは、この5原則を実践できているという。保科さんは「特に日本の中小企業や自治体は、大手企業とのコラボレーションが必要だ。複数の企業や自治体が連携し、共同でAIの活用に取り組むのが良いだろう」と語った。
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