忘れてしまった記憶をスムーズに思い出せる薬を発見した――北海道大学、京都大学、東京大学などの研究グループが1月8日、そんな研究結果を発表した。脳内で神経細胞が情報をやりとりするために使う「ヒスタミン」の放出を促す薬をマウス、ヒトに投与し、効果を確認したという。
研究チームは、実験箱にマウスと2つの玩具を入れ、途中で玩具を入れ替えるとマウスがどのように反応するかを観察した。マウスは物体に触れたり、匂いを嗅いだりして物体の特徴を覚える性質があり、入れ替えた直後は、より新しい玩具に好んで近づく。
しかし3日以上経過すると、最初から入れていた玩具と、途中で入れ替えた玩具を区別できなくなった。そこで、脳内のヒスタミン量を増やす薬を投与したところ、1カ月経過しても最初の物体を思い出せるようになった。
さらに、ヒトでも同様の薬を服用すると記憶を思い出しやすくなることを確認した。38人の被験者に複数の写真をあらかじめ見せ、1週間後にテストを実施。1週間前に「見せた写真」「見せなかった写真」「見せた写真と類似の写真」を提示して判断させた。
その際、ヒスタミンの放出量を増やす薬を投与した人は、テストの正解率が向上した。研究チームによれば、もともと記憶成績が悪かった人や難しい問題ほど、記憶の改善効果が大きかった。ただ、もともと成績が良かった被験者や簡単な問題では、成績が低下することも分かったという。
研究チームは、こうした研究結果が「ヒスタミンの働きや薬の新しい作用だけでなく、柔軟に働く記憶のメカニズムの解明にも貢献する」としている。アルツハイマー病などの治療薬の開発にもつながる可能性があるという。
研究成果は米科学誌「Biological Psychiatry」(電子版)に1月8日付で掲載された。
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