働き方改革の“即効薬”? いま「RPA」が注目される理由:特集・RPAで仕事が変わる(5/5 ページ)
日本でも多くの企業が導入し始めている「RPA」。なぜいまRPAが注目されているのか。RPAでできることや、私たちの働き方をどう変えていくのかを解説する。
「人間が操作するはずのシステムを動かす」の落とし穴
本来はRPAの長所である点が、逆に落とし穴を生み出す場合もある。
RPAはコンピュータなので、当然ながら人間と同じ作業をさせても、人間よりずっと速いスピードで行うことができる。例えばダウンロードしてきた売上データを、パワーポイント上の決められた箇所に100回コピペするという作業があったとしても、RPAであれば一瞬だ。しかも「単純作業で疲れてしまい、1ページ飛ばしてコピペをしていた」などというミスもない。
しかしこのスピードが“あだ”になる場合もある。月末の経費精算作業を例に考えてみよう。仮に現時点では、個々の従業員が当月に使った費用のレシート(紙)を読んで、その内容を経費精算システムに入力しているとする。ここにRPAを導入し、レシートを画像ファイルにして決められた場所に置いておくと、ロボットが読み取って(一部のRPA製品には文字認識ができるOCR機能が装備されている)システムに入力してくれるようになったらどうだろうか。
1人分、2人分の入力であれば問題ない。しかし100人分のデータを、RPAが一気に経費精算システムに入力しようとしたら――人間が入力するスピードと、入力する時間帯のバラつきを前提に負荷を想定しているシステムだったら、急激な負荷の上昇に耐えられず、最悪ダウンしてしまうかもしれない。笑いごとではなく、実際にこうしたケースがRPA導入の現場で起きている。
またRPAの操作スピードがあまりに速いため、画面切り替えが追い付かず、エラーが発生することもある。先ほどの経費精算システムの例で、レシートデータの入力後に「保存」ボタンを押すと、確認画面が表示され、「申請」ボタンを押すことにより作業が完了する仕組みになっていたとしよう。RPAは入力ミスをしないので、確認画面が必要なく、すぐに「申請」ボタンを押すようRPAに指示しても問題ないはずだ。
ところが実際には、確認画面の表示スピードがRPAの処理スピードよりほんの少し遅かったために、「申請」ボタンが見つからずエラーになってしまう。これも笑い事ではなく、RPA導入の際に珍しくない話だ。
人間が機械に合わせる時代に
他にも意外なほど、人間が使うツールは人間に合わせてチューニングされている。RPAはそれに気付かせてくれる良い機会、などとのんきなことは言っていられない。RPA導入・運用には見えない落とし穴がいっぱい、ということを心に留めておこう。RPAやAIを導入する際は、機械のやり方に人間が合わせるといった努力も必要になってくるだろう。
こうした課題がありつつも、前述のようにRPAは多くの企業に注目・導入され、成果を生み出し始めている。近日公開の記事では、RPA導入で失敗しないためのポイントや、運用の際に注意すべきことを解説していく。
著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。
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