AIがダジャレ判定→面白いと布団が吹っ飛ぶ “Qiita映え”バッチリ、話題のAI開発した若手チームを直撃:これからのAIの話をしよう(ダジャレ編)(4/4 ページ)
ダジャレを入力するとリアルに布団が吹っ飛ぶ装置が登場。AI(人工知能)がダジャレの面白さを判定する。
突然「デュポーン!」という音が響き、布団が天高く羽ばたくと目の前から消えました。どうやら、AIが「面白い」と判定したようです。考えてみれば、リアルに布団が吹っ飛んだ瞬間を見るのは生まれて初めてかもしれません。
「お〜っ!」(一同)
会議室内に歓声が響きます。「開発チームの皆さんは何度も見ているのでは?」と心の中で突っ込みましたが、実際に物が動くと興奮するのはエンジニアの特性なのかもしれません。
ちなみに得点は78.7点。これまで蓄積してきたダジャレのランキングでは第4位にランクインしました。さすが大塚商会。
「AIが作るダジャレ」を見てみたい
オフトゥンフライングシステムは、今後どのような進化を遂げるのでしょうか。例えば、ダジャレ評価AI「Ukeruka」の教師データ元は現在1つしかありませんが、複数の教師データ元を用意するとさまざまな評価が下せそうです。例えば、特定のお笑いの作法に対して甘めに得点を付けたり、評価が優しかったりするAIというのも面白そうです。
「笑いの好みは人によって違います。自分は面白いと思ったことに対して相手が笑ってくれないのは、笑いの好みが違うからだという解釈もできます。AIにそうした好みも学習させれば、みんな幸せになるんじゃないでしょうか」(藤田さん)
自分が面白いと思う笑いをAIに学習させることで、自分の発言をAIが面白いと評価してくれるようになるイメージですね。そのように評価するAIを育てることで、例えば「Ver.kaminuma」(上沼恵美子)や、「Ver.shiraku」(立川志らく)など、キャラクター性のある評価AIが誕生するかもしれません。
ダジャレの研究は、言葉の研究でもあります。自然言語処理界隈で、“意味付け”まで含めて研究している人は思っているよりは少ないのかもしれません。以前はキャッチコピーの自動生成を取材しましたが、ダジャレの自動生成も実は研究領域として面白いかもしれません。
中西さんは「最初同じことを考えていて、LSTM(再帰型ニューラルネットワークの一種)で学習させてダジャレを勝手に生成できないかと思いましたが、かなり先になる感じがしますね」と言います。
「ダジャレの構造がルールで決まっているのは分かりましたが、面白い、面白くないの再現が難しい。超えないといけない壁がいくつもあることが分かっただけでも良かったです。人間のダジャレって、実は知的な行為だったんだなと驚いてます」(酒井さん)
「AlphaGO Zero」が、自身と戦うことでより強くなっていったように、オフトゥンフライングシステムもダジャレを自ら生成し自ら評価するサイクルを何千万回、何億回と繰り返すことで、もしかしたら人間が理解できないダジャレ、見つけられなかったダジャレも誕生するかもしれません。
藤田さんは「今度は、布団を手でふっ飛ばしたらAIがダジャレを言う装置を作るかもしれません(笑)。新しい技術を使いながらこれからも本気でふざけていきたいですね」と答えます。
取材を終えて
ダジャレAIはブレインパッド社内でも「面白い」と評価されているようです。そういえばディープラーニングでフォントを見分けるロボットアーム「MSゴシック許さんマン」もブレインパッド社員の企画でした。AIを使って柔らかい話題も真剣に追える、楽しい会社なのだと取材帰りに感じました。
ダジャレAIを通じて、自然言語処理への挑戦と限界、人間の知性と奥深さを理解できました。むやみにダジャレを連発する人は一歩引いた目で見られることもある世の中ですが、実はAIが人間に勝てない領域の1つだったようです。
もしかしたら、ダジャレAIは私自身や藤田さんたちも気付いていない新たな可能性を秘めているかもしれません。ぜひソーシャル上で皆さんの気付きを共有して頂ければ幸いです。
くれぐれもダジャレだけ書き残さないように。いいか、ダジャレだけ書くなよ。絶対にダジャレだけ書くなよ!
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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