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ランキングは必要か? コンテンツ配信の「反響」と「新しさ」(2/4 ページ)

TVerにあって、Netflixにないもの。それはランキングだ。コンテンツ配信サービスの最新事情を西田宗千佳さんが解説。

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配信でランキングが重要な理由、そしてそれでもNetflixが「ランキングを出さない」理由

 多くのコンテンツサービスには「ランキング」がある。音楽にしてもアプリにしても、映像配信にしても変わらない。テレビの視聴率ランキングや映画の興行収入ランキングは、それ自体が人気コンテンツである。人はコンテンツの中身だけでなく、どのコンテンツが売れているか、ということそのものも、ある種のエンタテインメントにしている。

 ところが、すでに述べたように、Netflixにはランキングがない。Amazon Prime Videoも、アプリ上ではランキング機能は前面に出てこない。一方で、TVerやParaviのような日本のテレビ局のサービスではランキングが主軸であるにもかかわらず、だ。

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Netflixのアプリ画面にはランキングがない
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ParaviはNetflixと同じ月額制のサービスなのにランキングがある

 この違いは、サービスの中でコンテンツを提示するための軸が「レコメンドにあるか否か」を示している。

 デジタルによるコンテンツ配信は、「在庫量の制約」は非常に小さいものの、画面の広さに基づく「一覧性の制約」が非常に強い。検索やジャンル分類などもあるが、そうやって探してくれる人は必ずしも多くない。ショッピングなどの「自分で必要なものを探す」モチベーションが比較的高い市場ならば検索でカバーできるが、受け身な立場で使うことの多いエンタテインメントの場合、一覧性の制約はサービス利用の回数を狭めかねない。

 だからある種のインデックスが必要になるわけだが、そこで「ランキング」か「レコメンド」に頼る必要が出てくる。

 ランキングは客観的なデータであり、実装もシンプルだ。すでに述べたように、それ自体に面白みもある。だが一方で、「コンテンツ自体の消費を偏らせる」という大きな副作用を持っている。ランキングには万人に同じ情報が提示される。そこからコンテンツを選ぶなら、特定のコンテンツばかりに偏るのは必然だ。

 このことは、広告でビジネスをしているサービスには大きな問題とならない。だが、月額制・サブスクリプション型のサービスを提供しているところや、コンテンツの単品販売を主軸にしている企業には大きな問題となる。

 ランキングに提示されているものを見終わると、人は「もうこのサービスに用はない」と思ってしまいがちだ。いくらコンテンツを在庫しても、利用者に見つけてもらえなければ意味はない。利用者が見たことのない、体験したことのないコンテンツなら、制作年度がいつであろうと、実質的には「新しいコンテンツ」といってもいい。在庫を最大限に活用し、顧客のサービスへの興味を持続するには、すべての人に同じ基準のリストを提供するのはあまりに効率が悪いのだ。

 単品販売においても、ランキング外のものが売れづらい構造は問題だ。ランキングに上がってこない、小規模だったり新しくて知名度がなかったり、ニーズは少ないが重要なものだったりが売れず、マーケットプレイスとしての価値が下がるからだ。

 AppleはApp Storeで、ランキングを重視しない方針に切り替えている。2017年に行った刷新以降、ランキングのアピールは弱くなり、自社内で独自に行う「アプリの紹介記事」が前面に出てくる構成になっている。ニーズの掘り起こしのためだ。「社内でライターを抱えて書く」という構造であるため、品質は高く、掘り起こし効果はも見込めるのだが、すべての人のすべてのニーズを満たせるわけではない。

 そこで出てくるのが「レコメンド」である。その人の視聴履歴などから、その人が好むであろうと思われるコンテンツを類型化し、在庫の中から抽出して提示する。もちろんいまだ完璧とは言いがたい。だがそれでも、幅広いコンテンツへの接点を「顧客に応じてバラバラに」提示するのであれば、現状もっとも適切なアプローチである。

 他方で、レコメンドを軸にすると、今度はランキングが邪魔になる。ランキングは誘引効果が強すぎるからだ。新作を常に追加しつつ、「あなたがまだ見ていない作品は、いつ作られたものであっても『新作』です」という点を押し出していかないと、戦略との矛盾が生まれる。だから、Netflixにはランキングもないし、ことさら視聴量を公表することもしてこなかったのである。

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