「大企業とベンチャーの間にある法務格差をなくしたい」――現役の弁護士でありながらAI(人工知能)ベンチャー GVA TECHを起業した山本俊さん(兼GVA法律事務所代表)が、2月13日に都内で開催されたAIイベント「THE AI 3rd」でこう語った。
山本さんは弁護士として、これまで1000社以上のスタートアップの法務を支援してきた。スタートアップは法務が後回しになりがちで、「大企業との交渉で不利な契約をしたり、株や知財について後々問題になったりするケースも少なくない」(山本さん)という。
また、法律事務所を経営する中で「契約書作成、契約書チェック、法律相談、書面作成、判例リサーチ」といったルーティン業務に時間を割かれ、目まぐるしく状況が変わるIT業界のドメイン知識やビジネスへの理解を深めることに困難を感じていたという。
両者が抱える課題を解消するため、山本さんは2017年にGVA TECHを創業。AIによる契約書レビューサービス「AI-CON」を開発した。
AI-CONは、AIを使って契約書の作成から交渉までをサポートするサービス。ユーザー企業は、複数の質問に答えるだけで契約書のドラフトを作成可能。契約書のファイルをアップロードすると、1営業日以内に条文ごとのリスク判定と修正案が提示される。秘密保持契約(NDA)や業務委託契約、ライセンス契約などさまざまな契約書の条項リスク判定に対応する。
AIがレビューした内容を弁護士がチェックすることで、契約業務を効率化。弁護士に直接契約書のレビューを依頼するよりも費用を抑えられるとしている。
弁護士もAI活用を 「法務格差」解消へ
リーガルテック領域でのAI開発に取り組むGVA TECHだが、18年4月に「AI-CON」をリリースするまで苦労の連続だったという。
数あるルーティン業務の中で、山本さんはなぜ「契約書のレビュー」に目をつけたのか。「契約書チェックは間違いが許されない業務。弁護士は過去の契約書を参考にしながら内容を確認するので、過去のデータを学習させればAIでも同じことができると考えた。作業自体はAIの方が正確で早いはず」(山本さん)
機械学習と弁護士の知見があれば、契約業務を自動化できるはず――そう仮説を立て、山本さんは16年ごろからサービス開発に向けて動き出す。数学塾へ通ったり、独学でプログラミングを学んだりした。AIに詳しい大学教授や企業へのヒアリングもしたが「契約書のレビューのような非定型業務は難しい」と厳しい反応ばかりだったという。
しかし、勉強を続ける中で山本さんは「契約書内における“人間の意図”は限定されたもので、有利・不利の判定などは定型化できるのではないか」と考えた。実際、AI-CONでは条項ごとに有利〜不利を5段階でリスク評価できるようになっている。山本さんは「バックオフィスのクラウド化が進み、ビッグデータ収集が可能になるなど、サービスを開発するタイミングも良かった」と話す。
一方で、ドメイン知識を持つ弁護士が要件を固め、エンジニアとコミュニケーションしながら開発を進めるので「開発プロセスは複雑で、両者の(認識の)ずれをすり合わせるのは大変」と苦労も絶えない。
同社は今年1月、法人登記の自動化サービス「AI-CON 登記」を提供。オンライン上に登記情報・株主名簿をアップロードして不足情報を入力すると、法人登記に必要書類を作成できる。山本さんが司法書士の友人に相談し、着想を得たサービスだ。
山本さんは「士業の仕事はAIに代替されるのかという話があるが、定型業務は代替されるだろう」とし、「法務格差をなくす手段としてAIがある。人間は顧客の課題発見やコミュニケーションなどに注力すればいい」と語った。
関連記事
- 「AIで弁理士が失業」に異議 「そんなに単純な仕事じゃない」 日本弁理士会の梶副会長
AIは弁理士の仕事を奪うのか? 日本弁理士会の梶俊和副会長が当事者の視点から反論した。 - いよいよ施行された「改正著作権法」は、弁護士や学者にとってビジネスチャンスとなるかもしれない
2019年1月1日から施行された改正著作権法には、学識経験者にとって新たなビジネスチャンスの可能性があるといいます。AIと著作権に詳しい弁護士の杉浦健二さんが解説します。 - 改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説
2019年1月1日に施行予定の改正著作権法は、日本のAI開発にどのような影響を与えるのか。弁護士の柿沼太一さんが解説します。 - 「3分の1はお蔵入り」 失敗例に学ぶAIプロジェクトの勘所
「とにかく早く失敗すること」――AIプロジェクトを成功に導くためには、挑戦と失敗を繰り返して経験値をためることが大事だと電通の児玉拓也さんが語った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.