ジャック・バウアーは暴走しすぎ? 海外ドラマ「24」にみる政府機関のハッキング:架空世界で「認証」を知る(3/3 ページ)
小説、漫画、アニメ、映画などの架空世界に登場する「認証的なモノ」を取り上げて解説する連載をITmediaで出張掲載。第11回のテーマは架空世界の「政府機関によるハッキング」について。
エシュロン計画とは、アメリカを中心として構築された軍事目的の通信傍受システムで、NSA(国家安全保障局)が運用していたとされている。
軍事無線だけでなく、固定電話、携帯電話、ファクシミリ、電子メールなどのデジタル通信情報など、何でも収集していたとされており、これが欧州議会に2001年7月に報告書という形で公表されて話題となった。
米国は一貫して否定するエシュロンシステムだが、現実には実在するのだろうか。かのエドワード・スノーデンの告発によれば、エシュロンをさらに発展させた「PRISM」というシステムも存在するとされており、おそらく本当にあるのだと推測される。もちろん、米国政府が認めないのだから推測の域を出るものではないが……。
一方で、CTUがエシュロンの情報を利用できたのかというと、若干の疑念が残るのも事実である。あくまでも物語設定としてだが。というのも、CTUの親組織(という設定)であるCIAと、NSAの親組織である国防総省はかねてより反目し合っていることで有名だからだ。
とはいえ、いずれの組織もアメリカの安全保障のための活動を行う組織であるから、もしかすると何らかの情報提供があったのかもしれない。もしくは、CTUは独自に各種情報を収集するシステムや運用組織を稼働させていて、時期的に発足したばかりだったために、イマイチな職員採用が行われ、内通者の出現の原因になったとか……。
この辺も妄想がはかどるところである。
余談:政府による情報収集は自分の身にも?
こうした政府による情報収集が市民生活に影響を及ぼすかと言われれば、非常に微妙なところだ。
例えば一時期LINEの通信内容が韓国政府によって傍受されているというニュースが出回ったことがある。LINEも韓国政府もこの報道を強く否定した。
しかし、現在(※元記事の2017年当時)の朝鮮半島の政治情勢を鑑みると、有事の際には韓国の治安当局にサーバごと押収されてしまったり、最悪のケースでは北側に接収されてしまったりする可能性も否定できないだろう。
これは何もLINEばかりの話ではない。諸君が普段使っている電子メールに至っては通常は暗号化もされておらず、平文の状態で送信されている。何も政府機関でなくとも簡単に傍受できてしまうわけだ。
管理者の身元が信用できない公衆Wi-Fiなど、通信データを傍受されている恐れがある。そのような状況で、重要なメールを送受信することは避けたほうが良い。
インターネット上で完全に機密を保って情報をやりとりするのは、諸君が思っている以上にずっと難しい。機密情報を扱う企業や、それこそ政府機関は、専用回線を引いたり、暗号化通信を利用したりして、機密を保っているのだ。一般市民である諸君も、一応は気を付けておいた方が良いだろう。
次回は話題のあの映画を
今回は「24 -TWENTY FOUR-」を題材に、政府機関による認証のハッキングを見てきた。いかがだっただろうか。政府機関は犯罪捜査などのために強大な権力を行使するだけに、正しくその力を執行してほしいと思うのは私だけではあるまい。ジャックのような暴走しがちな捜査員がいないことを祈りたいものだ。
さて、次回は今年最終作が公開される予定のあのSF超大作に登場する認証を見ていこうと思っている。お楽しみに。それでは今回の講義はここまで!
著者プロフィール
朽木 海 (ライター、編集者、γ-Reverse代表)
ゲーム会社や出版社などの「IPが欲しい会社」と、ライトノベル作家や脚本家、漫画家などの「IPを作りたいフリーランス」を繋げるためのプロジェクト「γ-Reverse」の代表。引き続きライター業や編集者業も行っています。
「せぐなべ」紹介
ITを活用する上で無視できない認証とセキュリティの話題を、楽しく分かりやすく伝える認証セキュリティの情報サイト「せぐなべ」。運営企業のパスロジは、企業向け認証プラットフォーム「PassLogic」や個人向けパスワード管理アプリ「PassClip」などを提供。ITmedia NEWSで認証関連の話題を分かりやすく解説する「今さら聞けない「認証」のハナシ」を連載中。
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