“数字に弱いニッポン”、統計不正で露わに 「データの歪み」なぜ放置? 国会議員×元日銀マンが斬る:これからのAIの話をしよう(データ編)(4/4 ページ)
続々と問題になる、政府による統計不正。厚生労働省の「毎月勤労統計」の報道を皮切りに、データをめぐる諸問題について、エコノミストの鈴木卓実さんと立憲民主党の初鹿明博衆議院議員が議論した。
鈴木 明らかに言えるのは、予算不足と、何より人材不足です。調査対象である世帯や事業所などに調査票を配布する統計調査員の多くは、月4万円程度の報酬です。善意と公共心で業務を行う方も多いですが、中には職務の重要性を理解しておらず、気軽なバイト感覚の方もいるようです。
初鹿 そもそものデータの集め方や数え方から、ちゃんと考えないといけない。今の時代、足で稼ぐ方法は限界がきているのかもしれません。
鈴木 統計部署の予算と人員が減っているのは深刻な事態です。なぜなら統計のスクラップ・アンド・ビルドが進まないからです。統計の現場は、人も金も無くて数字を回すだけで精いっぱい。ビッグピクチャー(問題の全体像)を描く余裕が全くありません。事務手続きの簡素化すら描けないのが現状ではないでしょうか。いつまでも時代遅れの調査方法のままで、調査項目の重複も是正されず、効率化が進んでいない。まさに、「貧すれば鈍する」状況です。
初鹿 統計部署の人員削減の影響は大きいですね。人が減っているので、できる限り手間を少なくしたいと思ったのかもしれません。東京都の大規模事業所を全数調査から抽出に切り替えたのは04年からですが、調査対象がそもそも全体の1割少なかったという問題は、20年以上続いています。(調査員などの)教育にも手が回っていなかったのかと思うと驚きを隠せません。
鈴木 意思決定する側はデータの作成に関与したことがないので、ここまで現場がズタボロだったことに気付けなかったのかもしれません。
初鹿 われわれ野党にも責任はあるのですが、この四半世紀の政治の流れは「行政改革=人減らし」でした。しかし、この発想が間違っていたんです。例えば児童虐待の問題でも、現場は職員不足で疲弊しています。公務員の数を減らすことが良いことだと与党も野党も考えていましたが、ちょっと立ち止まる時期かもしれませんね。公的な立場でやらなければならない仕事は、公務員としてちゃんと人数も予算もそろえないといけません。
どのように統計を「立て直す」べきか?
―― この問題は、データに携わる全ての人たちが怒るべき問題だと考えています。日本統計学会や日本経済学会は声明を発表し、非常に危機感を持っています。考えてみれば、今まで論拠として使っていたデータが偽装だったなら全てが台無しになります。民間からは、どんな声が上がっているのでしょうか?
鈴木 私のような無名の人間か、逆に元日銀で調査統計局長だった経歴を持つ門間一夫さんや早川英男さんのような大御所しか声を上げていないようで、もっと声を上げるべきだと思います。
民間系シンクタンクは国から委託事業をもらえなくなるから忖度(そんたく)しているとやゆする人もいますが、私はそうじゃないと信じています。
―― 今回のような問題を繰り返さないためには、どういった対策が必要になるのでしょうか。
鈴木 (統計組織を)立て直すとなると10年はかかるでしょう。早川さんは日本経済新聞の取材に、20年はかかると述べています(※2)。
そもそも日本の行政組織には統計やデータを分かる人が少な過ぎます。「データサイエンティストを外から連れてくればいい」という意見もあるようですが、今の公務員の給与体系ではまず来ないでしょう。人を育てて、制度を変えて、予算も増やすとなると、少なくとも10年はかかりますよね。
※2:2019年2月19日付けの日本経済新聞電子版で「長期計画、例えば20年計画で人材育成を含めた体制整備を進めるべきではないか。数年単位の付け焼き刃の改革では同じ問題が起きる」と指摘している。
初鹿 われわれは、統計に特化した部署を作るべきではないかと主張していますが、与党は「単なるミスだから」で済まそうとしています。しかし、単なるミスで作った数字で政策判断をしたら、間違った結果を招いてしまう。正しい数字で議論をしないと、将来にわたって禍根を残します。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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