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四角が丸に、魚が蝶に──“不可能立体”研究10年、杉原教授が導き出した「錯視の方程式」(3/3 ページ)

教授が研究人生で編み出した、不可能立体を作る方法とは。研究の中で受けた衝撃や疑問について語った。

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なぜ脳は直角を好むのか 仮説検証に狩猟民族と接触

 「脳は立体物が直角であると思いこむ」という性質と、方程式を用いて不可能立体を生み出してきた杉原教授。「なぜ脳が直角を好むのか」については、2つの仮説が学者によって唱えられているという。

 一つは、身の回りが工業製品にあふれており、工業製品には直角が多いことから、現代人特有の錯覚だとする説。

 もう一つは、自然界に直角に生える木や、垂直落下する物体などがあることから、近代化前の人類からずっと持っている錯覚だとする説だ。

 そのどちらが正しいのか、あるいは別の答えがあるのかについては「よく分かっていない」(杉原教授)としつつも、大学在任中にそれを確かめられるかもしれない機会に巡り会えた。

 同大学で数理生物学を専攻する若野友一郎教授が、研究のため狩猟民族に接触しにいくという。彼らはシンプルなドーム状の家を作り、ジャングルを転々と移ることから、身近に四角い工業製品はないはず。

 そう考え、この機会に狩猟民族の人たちに、自身の不可能立体を見てもらい、錯覚が起きるか確認した。

 結果として、錯覚は起きた。しかし、すでに彼らは垂直に立った四角柱に支えられる屋根の下で、四角い板でできたベンチに腰掛けながら錯視を見ているような状況だった。


狩猟民族の人たちも、すでに直角に囲まれて暮らしていた

 杉原教授は、「彼らも直角に囲まれて暮らしていた」ため、いまだに脳が直角を好む理由は分かっていないと話した。

 在任中にはこのように確かめられなかったこともあるが、定年退職するからといって杉原教授の不可能立体への熱意が冷めることはなさそうだ。

 杉原教授は、退職後は「錯視アーティスト」としての道を歩みたいと壇上で宣言した。立体錯視の新種発見や創作はもちろん、立体錯視を応用した商品開発や、「上り坂と誤認識してしまう下り坂」のような錯視を防ぐ安全への取り組みに力を入れたいと話す。その中で、「なぜ脳は錯覚するのか」その仕組みについて今後も理解を深めていきたいとした。

訂正:2019年3月14日午後4時 記事掲出当初、杉原教授が定年で退職されることを「退官」としていましたが、明治大は私立のため教員は官職ではなく、国立大の教員も2004年の法人化以降は官職でないことから、「退職」もしくは「定年退職」と表現をあらためました。おわびして訂正いたします。



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