「海外は量子アニーリングに見切り」──ハードもソフトも開発する量子ベンチャー「MDR」に聞いた「量子コンピュータの今」(2/5 ページ)
世界有数の競争力を持つ日本の量子コンピュータのベンチャー企業MDRを立ち上げた湊雄一郎さんに「量子コンピュータの今」を聞く。
量子ゲート方式
従来「量子コンピュータ」といわれてきたのは量子ゲート方式の計算マシンで、80年代に物理学者のリチャード・ファインマン博士やデイヴィッド・ドイチュ博士などが構想を提唱した。
従来のコンピュータの論理回路に量子力学の性質を取り込んだもので、これに量子の性質を利用した計算アルゴリズムを用いると、ある計算では従来のコンピュータより高速に計算できることをピーター・ショア博士が94年に証明している。
量子アニーリング方式
一方の量子アニーリングは、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生の門脇正史さん(現デンソー)が98年に提唱した量子アルゴリズム。量子ゲート方式のような論理回路は用いず、格子状に並べた量子ビット間の相互作用(同じ、あるいは違う方向にどの程度向きたがるか)を設定し、「横磁場」という制御信号を量子ビットに与えることで、量子ビット群の最も低いエネルギー状態を探る手法だ。
金属を高温にしてからゆっくり冷やすと構造が安定する「焼きなまし」(アニーリング)という自然現象と同様の原理で問題を解いている。
それぞれのボトルネック
量子ゲート方式の量子コンピュータは「汎用量子コンピュータ」とも呼ばれ、量子論理回路を活用した各種アルゴリズムの高速計算が期待できる。しかし、高速計算の鍵となる量子ビットの「重ね合わせ」という状態が、わずかなノイズの混入で壊れてしまうことから、エラー訂正技術の開発が実用化に向けた壁になっている。
対する量子アニーリング方式は、汎用計算ができない代わりに「組み合わせ最適問題」を解くのに適しているとされる。理論的には問題の厳密解(※)にたどり着けるとされるが、量子ゲート方式と同様にノイズの問題がある他、ハードウェア的な制限から最小値までたどり着かず、多くは近似解にとどまる。
※問題の厳密解:量子アニーリングでは組み合わせ最適化問題を「イジングモデル」という形の関数に直し、量子アニーリングの過程で関数が取り得る、より小さな値を探す。「量子トンネル効果」という量子特有の性質で、関数の最小値=厳密解を理論的には導けるという。
「巡回セールスマン問題」が解けない
量子アニーリング方式を試してみて、いくつかハードルがあることが分かったと湊さんはいう。
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