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NHK問題、なにが軸なのか(1/2 ページ)

放送法の改正により、NHKテレビ放送の常時同時配信が認められた。これが意味するのは何か? 考えてみた。

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 5月29日、国会で改正放送法が可決・成立した。中心となるのは、インターネットでNHKテレビ放送の常時同時配信を認めることだ。

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放送法改正のポイント(総務省「放送法の一部を改正する法律案について」(PDFへのリンク))

 現在、NHKは放送法で「ネット配信」と「テレビ放送」の分業が定められており、特別な場合を除き、放送内容をそのまま、NHKの受信料収入を原資としてネット配信することは認められない。だが、今回の法改正によりこの点が改められ、ネットと放送で同じコンテンツを常時同時配信することが認められる。

 この報道があると、ネットには次のような言説があふれた。

 「今回の法改正で、テレビをもっていない人でも、PCやスマホさえ持っていればNHKの受信料を徴収される。すなわち、すべてのネット利用者はNHKに受信料を支払うことになる」

 もちろん、これは間違いだ。NHKに受信料を支払っている場合、ネットもその範疇で視聴可能であり、テレビを持っておらず、ネットで視聴する場合にも、「テレビでの支払いが登録されておらず、自ら視聴する行為を行った場合」にのみ、支払いを促すメッセージを出す仕組みだという。

 では、なぜこのような改正が行われたのか? NHKにはどんな問題があるのか? その点を改めて確認してみよう。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2019年6月3日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから

 なお、本稿では基本的に「NHKの放送内容の妥当性や価値の評価」については触れない。関連がないわけではないが、それを混ぜると話が見えづらくなる。その点は最後に触れるだけに留める。

「公共放送」という概念が「受信料」に混乱を生み出す

 まず根幹を確認しておきたい。NHKとはどんな組織なのだろうか?

 NHKこと日本放送協会は、みなさんもご存じの通り、日本の「公共放送」を担う総務省の外郭団体である。「公共のもの」という性質上、政府や民間企業の圧力に影響されないように、「受信料」を集めて運営することとなっている。

 誤解している人がいるかもしれないが、NHKの運営においては、税金は基本的に使われていない。NHKは「公共放送」であって「国営放送」ではないからだ。ただし、受信料収入をどう使うかは、国会での承認を受ける必要がある。ただし国際放送については国から交付金が出ており、税金が一切使われてないわけではない。

 一方で、受信料を支払うべき人をどう定義するか、という建て付けが難しい。

 NHKは国営放送でない。だが公共放送、という位置付けが少々ふんわりしたものであり、だがあくまで国営放送ではない、という扱いであるがゆえに、本来は「税金のように全国民から強制的に徴収する」=税で運営されるがごとき方法論は趣旨に反する。

 だからNHKは放送法に基づき、「受信設備を設置したものは受信契約を結ぶ=受信料支払いを行う義務がある」と定義している。すなわち、地上波については、地上波でNHKを受信可能な機器をもった時点で、視聴する・しないに関わらず、NHKへの受信料支払いの義務が発生する。全世帯から税のように取り立てるわけではないが、テレビの普及率は100%に近く、全国民が見れるようにしてあるので、ほぼ全世帯から収受できる……というわけだ。

 ……ん?

 揉めるのはこの定義だ。

 ワンセグでNHKの受信料支払いの義務が発生するか、という点が裁判で争われたが、これは「携帯電話の所持は、放送法で定める受信器の“設置”にあたるのか」という点が争点だ。カーナビのテレビ機能についても同様の争点があり、パソコンについては「受信可能であれば対象」ということで判断が確定している。

 では、NHK「だけ」が受信できないようにしたテレビは受信契約の対象にならないのか。一切、ずっと受信できないなら対象外だが、簡単に取り外したり、再調整したりできるなら「受信できる」と判断される。

 一切放送を見ないで、ビデオしかつかっていない、ゲーム機しかつながっていないテレビがあったらどうか? 「受信可能なので受信契約は必要」という建て付けではあるが、「うちにはモニターしかなく、テレビはない」というのは、昔から定番の「NHK対策」ワードだ。

 一部賃貸マンションなど、入居時にテレビが設置済みの場合、支払い義務は入居者と貸主、どちらに発生するのか。これも争われた(結果は入居者支払い)。

 できる限り徴収率を高めたいNHKと、そうではない消費者の間で、どうしても綱引きは発生する。

 ただ、ここで確認しておきたい原則がひとつある。

 それは、この受信契約による支払いは、一般家庭であれば「世帯」単位である、ということだ。同一世帯であれば台数を問わない。すでに受信契約をしていれば、家庭にテレビが増えようが、ワンセグ受信可能なスマホがあろうが、カーナビにテレビ受信機能あろうが、受信料は変わらない。

 なお、事業所の場合は「1台単位」になっている。ここはここで、確かに揉める要素がある。「テレビとしての機能を必要としない」事業者がテレビやケータイを導入し、そこにチューナーが入っている、という場合、それは受信料収受の対象なのか……という争いになるのは、ある意味で納得できる。

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