オフィスに溶け込むスマートデバイス、キングジム「インフォ」開発の舞台裏:体当たりッ!スマート家電事始め
キングジムの「インフォ」は、会議中でも通知の内容を自然に確認できるスマートボールペン。ユニークなデジタル文具はいかにして誕生したのか。企画開発担当者に聞いた。
「ポメラ」や「ブギーボード」などユニークな製品を世に送り出してきたキングジムが2つの「スマート文具」を発売した。クラウドファンディングを活用して商品化を実現したデジタルメモの新製品「カクミル」と、ボールペンとウェアラブルデバイスの融合を果たした“スマートボールペン”「インフォ」だ。
キングジムでインフォ(INF10)の企画開発を担当した佐藤賢亮氏(開発本部 デザイン設計部 エンジニアリング課リーダー)によると、きっかけはスマートウォッチなどウェアラブル端末の登場だったという。
「一度はスマートフォンとそのアプリに集約された日常で使う便利な機能が、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスに再び切り分けられ、市場で受け入れられています。身に付けることで操作しやすく、データを容易に見られるデバイスは、デジタル文具との相性もいい。そう考えて企画を立ち上げました」
この時点で決まっていたのは、ウェアラブル端末の機能を持つデジタル文具ということだけだ。ペンの他、ノートやペンケースなども候補に挙がったが、それぞれを試作して検討した結果、携帯性に優れ、多くの人が使うボールペンに決めた。
ボールペンをスマート文具にするメリットは、オフィスや会議室で自然に扱えること。例えば仕事の打ち合わせ中、スマホにプッシュ通知が届いても、話している相手の手前、画面をしっかり確認することは難しい。しかしボールペンなら相手と話しながら、さりげなく通知の内容を確認できる。インフォがいかにもなデジタルガジェット風の外観ではなく、ボールペンらしいデザインになっているのはそのためだ。
佐藤氏は、プロジェクト立ち上げ直後から「ペンとして違和感のないサイズとデザインに落とし込む」ことを意識した。またビジネスシーンでは多色仕様のペンが良く使われるため、インフォは黒と赤の2色ペンとすることも早い時期に決まっていた。
しかし、思いつくままにウェアラブルデバイスの機能をペンに詰め込んでしまうと、「本体がとても大きくなってしまう」(佐藤氏)ことが試作の段階で分かった。そこで佐藤氏は、インフォの機能を絞り込むとともに、社内のデザイナーと小型化に取り組むことにした。
まず2色ボールペンの構造を見直し、筐体のおよそ半分のスペースに収めることに成功した。残り半分に電子部品を詰め込もうとしたが、なかなかうまくいかない。
「省スペース化のために個々の部品をイチから起こすのはコスト的に難しく、必然的に市販の量産品を使うことになります。しかし(汎用的な量産品は大きめで)予定していたスペースに収めるのは容易ではありません。1年以上、トライ&エラーを繰り返して何とか形にしました」(佐藤氏)。苦労はしたが、「ペンとして使いやすくするため、重心の位置やバランスにも気を配りました」という。
「ペンで書く」にこだわる人に
インフォには、着信時にバイブレーションやLEDで通知したり、スマホのプッシュ通知を小さなディスプレイに短いテキストで表示したりする機能がある。接続したスマートフォンの音楽アプリやカメラアプリをリモート操作できる他、スマホが見当たらないときはインフォから呼び出せる。なお、発表時に指摘された「ディスプレイにロックがかけられない」点については、発売後のファームウェアアップデートで任意の通知をペンからすぐに消せる仕様に変えることで対応した。
筆者もインフォを体験し、他に類のない新しいタイプのデジタル文具だと感じた。取材中でも無理せずにメッセージを確認できるのはとても便利だ。真鍮(しんちゅう)に装飾クロームコーティングを施した本体の質感も満足度が高い。
ビジネスシーンにPCやスマホ、タブレットが普及し、ペンで文字を書く機会はめっきりと減ったものの、佐藤氏は「文字を書くことに“こだわり”を持つ方々がいなくなることはありえません」と力説する。そうした人たちにこそインフォを使ってほしいという。
「インフォが狙う市場はニッチで小さな範囲かもしれませんが、その人々の思いを私たちは大切にしたいです。その上でデジタル技術によるスマホ連携の便利な機能をていねいに訴求できれば、書くことを愛する方々に、今までになかった新たなライフスタイルを提案できると考えています」(佐藤氏)
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