「量子版ムーアの法則」は実現するか 今の量子コンピュータは「さながら1950年代」(2/2 ページ)
科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターの嶋田義皓フェローが、量子コンピュータの現状や、実用化が見込まれる時期を解説した。
NISQは、「Noisy Intermediate-Scale Quantum device」(ノイズあり中規模量子デバイス)のことで、量子エラー訂正が不十分で50〜100量子ビット程度の量子コンピュータを指す。現在の量子コンピュータは基本的にNISQだといえる。
「エラー訂正が不十分だとしても、100量子ビットの計算をスパコンでシミュレートすることはできない。NISQでも、何か役に立つ計算ができるのではないか」(嶋田フェロー)
NISQの活用方法としては、従来のコンピュータと組み合わせ、小規模な量子計算を何度も行って従来のコンピュータで最適化計算するハイブリッドアルゴリズムが考案されている。
NISQの活躍が期待されているのは、化学物質の物性予測や分子設計を行う「量子化学・量子多体系」や、行列計算が必要な「機械学習」の分野だ。「他にも、乱数生成に使ってもいいし、ゲームの画像処理などにも適用できるかもしれない。NISQが有用だと示す『キラーアプリ』を探すことが重要」(嶋田フェロー)という。
「量子版ムーアの法則の実現には、ソフトとハードの性能向上以外にもいろいろな動きが必要。NISQでのキラーアプリを見つけて量子コンピュータの優位性を実証し、直接的・間接的に収益を上げる。その収益を次世代のソフト・ハードの技術開発へ投資する。このような好循環があって初めて量子版ムーアの法則を実現できる」(同)
嶋田フェローは「まだ量子版ムーアの法則は始まっていない。しかし1、2年後にはもう始まるかもしれない。(事業者の方々には)ぜひこのサイクルに関わっていってほしい」と語った。
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