香港で目撃した創造的デモとYouTube 過激なアカウントは取り締まれるか:動画の世紀(3/3 ページ)
香港のデモを現地で目撃した筆者が考えた、YouTubeと規制との関係。
「過激なアカウント」の需要
一方で、過激な主張を行うアカウントが増える一方なのは、そこに需要があるからだという指摘もされています。
事実、先ほどの「ソフ」を名乗る14歳の少女ですが、YouTubeでアカウントが停止されると、即座に別の動画サイトへと活動の場を移行。そして7月31日にYouTubeに投稿し、アカウント停止のきっかけとなったと考えられるLGBT攻撃動画についても、同じ内容に多少の修正を加えたバージョンを公開しています。いずれもあえてリンクすることは避けますが、現時点でチャンネルの購読者数は約3万8000人、LGBT攻撃動画の再生回数は約16万回となっています。
こうした数字に加えて注目すべきは、彼女の主張に賛同するコメントの多さです。現時点でこの動画に付けられたコメント数は2259件で、動画の内容を肯定するものがほとんど。批判コメントには即座に反論が付くという状態です。こうした「熱心なファン」たちに答えるために、ソフはさらに過激なメッセージを投稿するようになっている、との指摘もなされています。
また先日、YouTubeについて、個人として「初の登録者1億人突破チャンネル」が登場したというニュースが流れました。それは「PewDiePie」という名前でチャンネル登録している、フェリックス・シェルベリという人物。彼はテレビゲームの実況中継を行うYouTuberとして有名で、2015年には、年間の収入が740万ドル(日本円で約7億8000万円)にも達していると報じられています。
そんな彼は、8月19日に次のような動画を投稿しています。
彼はこの中で、「過去にやってしまった正しくないことについ謝罪する」と発言しているのですが、実はシェルベリは2017年に、Wall Street Journal紙から「反ユダヤ的ジョークを繰り返し使った」として糾弾されているのです。彼は既にこの件について謝罪しているのですが、他にも黒人差別ではないか、ヒトラーを擁護しているのではないかと批判される発言を行っており、署名収集サイト「Change.org」上で彼のアカウントを停止しようという呼びかけまで行われています(現時点で賛同者の数は約9万人)。
シェルベリの言動に関する議論は避けたいと思いますが、言動に対する批判のある人物がYouTube初の登録者1億人突破チャンネルになったという事実は、「過激さ」を取り締まることの難しさを象徴しているといえるでしょう。
日本でも、過激な言動で人々の注目を集め、一定の支持を得る著名人が現れ始めています。そうした行為に対し、プラットフォームの側で歯止めをかけるのが期待薄だとすれば、同じプラットフォームの上で彼らから注目を奪い返す行動が必要なのかもしれません。それが香港の若者たちが行ったような、平和的で創造的なパフォーマンスとなれば良いのですが。
著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『YouTubeの時代』(ケヴィン・アロッカ著、NTT出版)など多数。
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