駅ナカで始まる「サブスク自販機」、狙いと勝算を仕掛け人に聞く 「反対意見が出て当然。それでこそ知ってもらえる」(2/3 ページ)
8月末に発表され、「使ってみたい」「メリットが分からない」などとネットで賛否両論を呼んだ「サブスク自販機」。このサービスを仕掛けた、JR東日本ウォータービジネスの担当者に、狙いと勝算について聞いた。認知度アップや消費増税への対応など、さまざまな狙いが隠されているという。
消費増税に対応する狙い
同社が顧客獲得に向けてユニークな取り組みを行うのは、今回が初めてではない。2010年にはディスプレイとカメラを搭載し、画像から顧客の属性を分析しておすすめ商品を出し分ける「次世代自販機」をローンチ。everypassに対応するイノベーション自販機は17年に開発し、アプリで事前にドリンクの購入を済ませた上で、機体にQRコードをかざすと商品を受け取れる機能を持たせている。この路線を踏襲し、さらに機能面をアップグレードするという選択肢もあったはずだ。
その理由について、東野さんはこう説明する。
「サブスク自販機を企画し、このタイミングで始めるそもそもの理由は、消費増税に備えるためです。当社は消費税が8%に上がった14年、増税に合わせて商品を値上げしましたが、それに伴って(増税に便乗した値上げではないかと)風評被害を受け、売上高の成長が鈍化した苦い経験があります。今回の増税では値上げをしないので、買い控えは起きないとは思いますが、過去のトラウマを繰り返さないためにも、普通のことをやっていたらダメだと考えました」
新施策を検討する中で、イノベーション自販機のモーション認証機能を強化し、顧客が自販機の前で手を振るとドリンクが買えるといった、より親しみを持ってもらう案も出たという。だが、同社が掲げる「飲料の購入の概念を変える」というビジョンにより適合し、価格面のメリットも提供できるため、サブスクの提供を決めたとしている。
圧倒的に使われる価格に
everypassの料金プランは、同社のプライベートブランド「acure made」のみ選べるプラン(月額980円)と、他社の商品も選べるプラン(月額2480円)の2種。前者は1カ月のみ利用可能で、その後は後者に自動で切り替わる仕組みだ。1カ月間毎日利用すると仮定して単純計算すると、1本当たりの価格が前者は約31〜33円、後者は約80〜83円となる。平日のみ(20日で計算)の利用でも、前者は49円、後者は124円。サブスク自販機を利用してドリンクを買うと、通常よりも得なのだ。
東野さんは、こうした価格設定にすることで、「今年も増税に伴って値上げするのでは?」という風評を払拭(ふっしょく)する効果と、自販機の半額程度でドリンクを販売するスーパーマーケットやディスカウントショップに顧客が流れるケースも防ぐ効果を見込んでいるのだ。
「ビジネスとしてやる以上、投資回収や収益化を一切目指していないわけではありませんが、皆さんに『圧倒的に使いたい』と思ってもらえる価格設定を目指しました」(東野さん)
レッドブルを最安80円で飲める!?
ただ、顧客が毎日「レッドブル」(210円程度)など比較的高価格の商品を買い続けることも理論上は可能で、その場合は同社の利益は少なくなる。当初は500人に絞ってサービスを始める理由は、そうした消費行動が起きるか否かを確かめるためだという。
「あえて人数を抑えたのは、赤字を出さずにサービスを成立させられるのかをスモールスタートで検証するためです。サブスクに対応するイノベーション自販機は400台しかなく、1都3県に集中しているため、設置している駅に顧客が殺到し、売り切れが続いてしまうことも考えられます。本当に毎日使ってもらえるかも分かりません。使われ方をしっかり確かめたいと思います」(東野さん)
サブスク自販機は、ドリンクをもらい忘れた場合に、次の日にまとめて受け取る――といった使い方ができない仕様にしているが、これも売り切れを防ぐためだという。
東野さんと共にサービス開発に携わった藤江亨さん(イノベーション自販機サービス開発プロジェクトチーム)は「仮に1カ月間使わず、月末に30本まとめてドリンクを受け取る人が続出した場合、自販機の商品が一気に売り切れ、他の顧客に迷惑が掛かります。そうしたケースをなくすためにあえて制限を設け、毎日使う習慣をつけてもらいたいと考えています」と説明する。
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