国立がん研究センターなど病院に広がる「Azure」「Teams」 日本マイクロソフト、医療業界へのクラウド普及に自信
日本マイクロソフトが、ヘルスケア領域におけるクラウドサービスの導入事例を公表。がん手術の動画を「Azure」に集約している国立がん研究センターの例などを紹介した。同社は18〜20年の3年間で、ヘルスケア業界全体のクラウド利用率を4割から7割に引き上げるなどの目標を掲げており、進捗(しんちょく)は順調という。
日本マイクロソフトが、ヘルスケア業界へのクラウドサービス導入を加速させている。同社は「Microsoft Azure」「Microsoft Teams」などが医療・製薬業界の発展や働き方改革に効果的だとし、病院、製薬会社、研究機関への提供を推進。2019年6月期のヘルスケア事業では、クラウドサービスの売上成長率が前期比1.5倍(Azure単体では同2.8倍)に拡大した。導入先では、Azureで治療技術のデータベースを構築したり、Teamsでカルテを共有したり――といった取り組みが行われているという。
がん手術のテクニックをAzureに集約
「医師たちの暗黙知を(クラウド上で)可視化し、手術のテクニックを集約したデータベースを作ることで、医療のレベルを上げたい」。日本マイクロソフトが10月8日に開いた会見に登壇した、国立がん研究センター東病院 大腸外科の竹下修由医師はこう語った。同院では17年11月から「Azure Storage」「Azure SQL Database」などを活用し、がん手術の技法を動画にまとめたデータベースを構築している。
これまでの医療業界では、手術の技法は医師が個々人で習得するのが一般的で、力量には個人差があった。だが今後は、少子高齢化によって患者の数が増える一方で医師の数が減ることが想定されているため、医療の質を均一化しつつ底上げを図る狙いでデータベースの構築を決めたという。
構築に当たっては、協力する施設から受け取った手術動画を細かいセグメントに分割し、「血管の処理」「手術器具の操作」「患者からの出血」といった情報を付与するアノテーション作業を行った上で、データベース内に格納している。格納した動画はAIに機械学習させて企業に提供し、手術支援ロボットの動作をつかさどるシステムの開発にもつなげる考えだ。若手医師の医師の教育にも生かすとしている。
現時点で大腸がんを中心に1000症例の手術動画が集まっており、大腸がん手術をナビゲーションするシステムのプロトタイプは完成しているという。今後はこの手法を横展開し、他の臓器のがん治療にも手を広げる計画だ。
竹下医師は「クルマの自動運転の水準に例えると、今の手術の自動化レベルは0(人が100%判断している状況)だが、ゆくゆくは手術の自動化に近づきたい」と意気込んだ。
Teamsで医療スタッフ間の意思疎通を効率化
また、岡山県倉敷市にある総合病院、倉敷中央病院では、専門医と医療スタッフ全員がTeamsを活用して意思疎通しているという。具体的には、救急患者が夜中に運び込まれた場合などに、患者の容体を記録した写真などを看護師と医師の間で綿密にやりとりし、対応の迅速化につなげているとしている。
この他、救急外来用に特化したデータ管理ツールなどを開発するベンチャーのTXP Medicalは、同社の電子カルテシステムとTeamsを連携。医療機関が、救急搬送された患者を他院に搬送せざるを得ない場合などに、カルテを電子化して搬送先の病院に送れるサービスを開発し、医師が紙のカルテを作成する手間を解消しているという。
約15年の経験を生かしている
このように、医療現場などへのクラウドサービスの普及が進んでいる理由について、同社の大山訓弘氏(業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長)は「当社はWindows ServerやSQL Serverの時代も含め、足かけ15年ほどヘルスケア業界に向けた取り組みをしてきた。医療業界独特の知見も得ることができ、サポート体制に生かせている」と説明する。
日本マイクロソフトは18〜20年の3年間で、ヘルスケア領域の売上高におけるクラウドサービスの比率を4割から7割に引き上げ、売上高を1.5倍にする目標を掲げており、今後も達成に向けて営業活動に注力する方針だ。大山氏は「目標達成に向け、進捗(しんちょく)状況は順調だ」と自信を見せた。
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