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ネット時代にJASRACの「ビジネスモデル」はどうあるべきか(1/4 ページ)

いわゆる「JASRAC批判」は全て正しいのか? 音楽著作権に詳しい筆者が現状を分析する。

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 JASRACをはじめとする音楽著作権管理事業者の基本的な仕組みは、作詞家・作曲家から著作権を(通常は、音楽出版社を経由して)預かり、その著作権に基づいて、放送局、ライブハウス、飲食店、レコード会社、ネット配信業者などの音楽の利用者から所定の著作権使用料を徴収し、作詞家・作曲家へと分配することである。

 特にネット世論を中心にJASRACへの批判が喧(かまびす)しいが、現実問題として音楽著作権の集中管理は避けて通れない。集中管理がなかったならば、作詞家・作曲家は自分の作品を勝手に利用されても個人で訴訟をするわけにもいかないため泣き寝入りすることになるか、あるいは、利用者が個別に作詞家・作曲家に楽曲利用の交渉をしなければならないかになってしまう。いずれもあるべき姿とは言えない。

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JASRAC公式サイト

 例えば、「初音ミク」などのVOCALOIDによる楽曲をYouTube等で発表しているインディーズ系の作詞家・作曲家も、著作権(少なくとも一部の支分権)をJASRACに信託することが常識化している。カラオケ店等の利用によって自身の作品をマネタイズするために必要だからである。他人の楽曲を自由に利用して新たな作品を作り出していくことを許容する、いわば著作権を強行に行使しないことが当たり前のネットの世界でも、営利目的利用であれば利益の一部を還元してもらいたいと考えるのはクリエイターとして当然のことであり、このような目的に応えるためには、音楽著作権管理事業者を介することが現実的な唯一の道である。

 音楽著作権管理事業者が存在することで、所定の料金を払うだけで(海外の著作者による作品も含め)多様な音楽作品を利用できる。かつては、著作権侵害行為がまん延していたYouTube等の動画配信サイトにおいても、現在はJASRAC(および後述のNexTone)が配信事業者と包括契約を結び、売上げの一部を著作権使用料として徴収することで合法的な管理楽曲の利用を可能にしている。徴収された著作権使用料は利用実態に応じて作詞家・作曲家に分配される。エンドユーザーは手軽に(多くの場合無料で)合法的に音楽を利用でき、クリエイターには自分の作品が生み出した価値の一部が還元される。このようなスキームの価値は否定しがたい。

 ブロックチェーンにより、仲介者を排して利用者とクリエイターを直接結び付けられようになれば著作権管理事業者は不要になるというビジョンが語られることがある。しかし、少なくとも当面の間これは「ビジョン」にとどまるだろう。生演奏を含むさまざまな利用形態や信義則に従わない利用等に対応するためには人的リソースを擁する機関の仲介が不可欠である。「ブロックチェーンで著作権管理を改革する」という触れ込みのサービスも今の所は実質的に「仮想通貨で支払える音源ダウンロード販売サイト」のレベルにとどまっているのが実情だ。

著作権管理における公正な競争は可能か

 もちろん、音楽著作権の集中管理の仕組みが優れている(と言うよりも、それより優れた代替案がない)からと言って、現在のJASRACのオペレーションに問題がないということではない。以下では、そのような問題点について見ていきたい。

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