ネット時代にJASRACの「ビジネスモデル」はどうあるべきか(4/4 ページ)
いわゆる「JASRAC批判」は全て正しいのか? 音楽著作権に詳しい筆者が現状を分析する。
旧態依然たるIT活用
その実現のためには、現状のJASRACのIT活用は一時代前のものと言わざるを得ない。例えば、JASRACはJ-WIDという作品データベースを提供しているが、決して使いやすいとは言えず、APIによるアクセスも不可能である。J-OPUSというライブハウスでの演奏を全曲報告するためのシステムも存在するが、現場からの評判は芳しくなく、結果的に利用が進んでいない。さらに、ライブハウスに全曲報告してもらうためのインセンティブも不足している。当然ながらこの点はJASRACも認識していると思うが、センサス方式への移行にはこの課題を克服する必要がある。
J-WIDやJ-OPUSにウェブAPIを提供し、外部から容易にアクセスできようにすれば、使いやすいスマホアプリも登場し、全曲報告も容易になるだろう。また、フィンガープリントにより楽曲を自動識別できるテクノロジーも進化している。これらのテクノロジーを組み合わせれば、楽曲の自動報告も技術的にはある程度可能な段階まで来ている(極端なアレンジがされたものは困難であろうがCDによるBGMであれば技術的には現時点でも実現可能である)。
私見だが、今日、特にネット世論で見られるJASRAC批判は事実に基づかないもの、あるいは単にクリエイターへの還元を行いたくないという自分勝手なものが多いように思える。しかし、この点だけは早急にJASRACに改善していただきたいポイントだ。
ネット時代にも音楽著作権の集中管理スキームは避けて通れない。JASRACとNexToneが公正な競争を行い、特にテクノロジーを活用した業務改革を行っていけば、利用者にとってもクリエイターに取ってもより望ましい世界が実現されるだろう。ここで、障害の1つとなり得るのは演奏権の管理がJASRACの独占状態となっていることだ。この問題の解決は容易ではないが、政策的な対応も含めてさまざまな可能性を探っていくべきだろう。
著者について
栗原潔(くりはらきよし)。日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願の相談に対応している。最近の訳書に「キャズム」のジェフリー・ムーア最新作「ゾーンマネジメント」。
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