「なぜクラウドなんだ」「今までのやり方を変えないで」――反発乗り越えAWSなど導入 京王バスを変えた男の交渉術(2/2 ページ)
京王電鉄の虻川勝彦氏(経営統括本部 デジタル戦略推進部長)が、12月10日に開催されたイベント「NetApp INSIGHT 2019 TOKYO」に登壇。京王バスに出向していた当時に、周囲に反発されながらもクラウド導入を推進した際の交渉術を語った。コツは「止まっても謝れば済む領域から導入する」ことだという。
クラウド導入は「停止しても、謝れば済む領域から」
粘り強く交渉した結果、社内でクラウドの導入が決まった。虻川氏は、全社的な取り組みにするためには、段階を踏む必要があると判断。「停止しても、謝れば済む領域から」をモットーに、スモールスタートでクラウド活用を始めた。
当初はAWSなどの大規模なサービスではなく、社内ネットワークに利用していたKDDIが提供しているバーチャルデータセンターシステムを採用。社内向けeラーニングや、認証システムのバックアップ、プロジェクト管理――など、ビジネスに必ずしも直結しないサービスの基盤として利用し始めた。
このKDDIのシステムは安定性が高く、虻川氏は手応えを得た。12年には公式サイトの基盤をクラウド化した他、ファイルサーバも導入。SaaSの活用にも手を広げていった。
この時点でも「謝ったら許される領域から」のモットーに従い、ビジネスに直結する基幹システムへの導入は見送った。クラウド化したシステムは、多くの社員が使うものの、代替手段が存在するものに絞ったという。
基幹システムへのクラウド導入を本格化したのは、さらなる手応えを得た14年から。「コミュニティーや情報量の多さに魅力を感じた」としてAWSを使い始めたのもこの頃で、磁気定期の販売システムや、ダイヤ編成システムなどの基盤として採用した。
15年には、それまでUNIXサーバ上で稼働させていた高速バス予約システム「ハイウェイバスドットコム」をAWSに移行。並行して、アプリ開発基盤にkintoneを導入し、遺失物管理、乗組員台帳、添乗員評価などの自社アプリの内製も始めた。
「パソコン屋だろ?」から「話を聞いてほしい」に
こうした取り組みを進めた結果、虻川氏が京王電鉄に戻ることが決まった頃には、社内の意識は大きく変わっていた。
「システム部門はスピード感のある開発に取り組み、さまざまなアプリを迅速に内製できるようになりました。現場の理解も深まり、出向当初は『情シス? パソコン屋だろ?』と冷たい目線を向けていた人たちも、『話を聞いてほしい』『コーヒーでも飲もうよ』と積極的に話しかけてくれるようになりました」
特にシステム部門の意識が変わった要因の1つに、ある評価の仕方をしたことも挙げられる。同氏はクラウドサービスを使い始めた当初、メンバーの変化に対するモチベーションを引き出すため、チャレンジせずに現状を維持した人よりも、チャレンジして失敗した人の評価を高くすると公言したという。
クラウドを導入した際は、メンバーに目的やメリットを説明した上で、まず触らせてみた。「しかるのは適当に取り組んだ時だけで、基本的には失敗しても怒らず、組織的にチャレンジを応援する姿勢を徹底しました」
現在はAWS、Azure、GCPを併用
京王グループでは現在、AWSを中心に「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」などのクラウドサービスを用途に合わせて選択するなど、クラウド化を加速させている。
同氏は、かつては「石橋をたたいて壊すほど慎重だ」などと社風を評する声もあったと振り返りつつ、今では全員でスピード感を上げる努力を続けていると話す。「皆さんもクラウドをどんどん活用して目の前の業務を減らし、新しいビジネスを考える時間を作り、会社を元気にしていきましょう」と聴衆に語りかけた。
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