蜘蛛の「眼」に学ぶ超小型深度センサー ハーバード大学など開発:Innovative Tech
正確に標的の場所を捉える蜘蛛の眼の仕組みを応用すると、超小型の深度センサーを作ることができる。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
ハーバード大学とシンガポール国立大学、 カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが11月に発表した新技術は、蜘蛛にヒントを得たコンパクトな深度センサーだ。
一般的な深度センサーは、 Time-of-flight(ToF) という方式が多い。デバイスから光やパルスを飛ばして、物体からの跳ね返り時間を測定し距離を計算する方式だ。自動運転車によく用いられるLIDARや、Xbox向けに開発されたMicrosoft Kinectなどで採用されている。iPhoneのFace IDも、赤外線ドットの跳ね返りを使用して顔の輪郭をマッピングする。
しかしながら、この方式はバッテリーや高速コンピュータ用のスペースを確保できる大きなデバイスが必要なため、スマートウォッチやマイクロロボットなど、電力と計算能力が限られる小さなデバイスでは非常に困難だ。
そこで研究チームは、小さなデバイスでも機能する深度センサーを開発した。これは、大きな脳を持たないハエトリグモの深度認識に触発された。ハエトリグモは、離れた場所から獲物に向かってジャンプし捕獲するが、獲物までの奥行きを正確に知覚している。
ハエトリグモの各主眼には、層状に配置する複数の半透明な網膜が備わっており、それぞれ異なる量のボケ画像(デフォーカス画像)を複数枚取得できる。物体をシャープに捉える網膜、ボケて捉える網膜など、ぼかしを変化させた画像を一度に捉えることで、距離を計算する。
ハエトリグモの深度認識をまねるために、異なる情報を含む複数の画像を同時に生成可能な「メタレンズ」(Metalens)を採用。 一般的な湾曲レンズではなく、フラットレンズであること、白色を含む全可視光スペクトルを集光可能なシングルレンズであることが特徴だ。フラットでありながら色収差補正で多数のレンズを重ねる必要がないため、小型のままデバイスに組み込める。
このメタレンズを用いて、深度センサーを設計。異なる2枚のボケ画像をリアルタイムに生成し、物体までの距離を表す深度マップを構築する。
この深度センサーを使用することで、小型デバイスでも深度計算が容易になる。メガネ型ARデバイスやワイヤレスイヤフォンなどへの搭載が期待される。
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