本業はエンジニア、副業は探偵――2つの顔を持つ男が始めた「ITを使った浮気調査」の実力(3/3 ページ)
表の顔はエンジニア、裏の顔は探偵――。都内某所に、そんな男性が立ち上げた探偵事務所が存在する。創設者の船木孝則氏(仮名)に、ITを使って解決した浮気調査のエピソードを聞いた。船木氏が探偵になった背景には、とある過去の出来事があったという。
どん底の日々の中、募る探偵への思い
家族だけでなく、財産分与によって資産の一部も失った船木氏。エンジニアとしての仕事は続けていたものの、どん底の日々を送る中で、船木氏の心の中では、ある思いが強くなっていた。
「『あの時探偵を雇ってしっかり調査していたら、もっと納得いく結果が出せたのではないか』という後悔がひしひしとわいてきた。同時に『自分の経験を生かし、同じような悩みを抱える人々を助ける仕事ができないか』と新しい道を模索した。そこで思い付いたのが、自らが浮気調査を手掛ける探偵になることだった」
だが、世の中には探偵事務所は数多く存在し、全国区の大手企業も存在する。そんな中で優位性を打ち出し、顧客を獲得するには、長く親しんできたITを調査に生かして実績を上げることが不可欠だと考えたのだ。
心を決めた後、船木氏はノウハウを学ぶため、都内の某探偵学校に通った。調査対象者にバレないように写真を撮る方法、混んでいる時や人が少ない時など、ケースに応じた尾行術、クルマで尾行する際のドライビングテクニック――。講師に教わりながらスキルを身に付ける中で、船木氏は、探偵業界ではIT化が進んでいないことに気付いた。
「報告書は紙に印刷して共有するのが当たり前で、調査はひたすら尾行や張り込みを続けるのが一般的。地道で泥臭い作業がスタンダードで、業務の自動化や効率化とは縁遠い世界だった。講座は勉強になった反面、エンジニア歴が長い私は、業界の風潮をもどかしく感じた。自分で事務所を始める時は、ITをうまく使いたいという思いがさらに強くなった」
打ち合わせに「Microsoft Teams」「Google Drive」使用
こうした経緯で17年に事務所を開いた後、船木氏は冒頭で述べたような手法を調査に採り入れている他、仲間たちとの打ち合わせには「Microsoft Teams」を駆使し、報告書は「Google Drive」を使って共同作成するなど、SaaSを使った事務所内のデジタル化も進めている。
今後はさらに、ITを活用した浮気調査の手法をブラッシュアップしつつ、他の探偵事務所向けのシステム構築にも取り組み、業界全体のデジタル化を進めるつもりだ。「依頼があれば、探偵事務所向けの業務・基幹システムや、他社の調査を支援するWebサービスも構築してみたい」と船木氏は意気込む。
「デリヘル運転手と探偵の仕事で培った知見を生かし、都内のラブホテルの料金プランや宿泊できる時間帯、出入り口の数、最寄り駅などを網羅したデータベースを作りたい。チャットbotにホテルの名前を送ると、詳細な情報を返してくれる仕組みだと面白い。組み込み系エンジニアが本業の仲間がいるので、浮気調査に使えるIoTセンサーを自社開発してもいい」――。船木氏のアイデアは尽きない。
誰も浮気しない世界になってほしい
探偵を始めるきっかけとなった離婚から3年超の時がたち、その後は元妻や子どもとは会っていないというが、もう船木氏は吹っ切れている。
「本音を言えば、誰も浮気をしない世界になってほしい。だが悲しいことに、それはありえない。だからこそ、私は得意分野のノウハウを駆使して困っている人を助けたい。今でこそ『本業はエンジニア』と名乗っているが、いつかは探偵業を軌道に乗せ、稼ぎの比率の逆転を目指したい」
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