なぜ中国メーカーはニッチな“超小型ノートPC”を市場に出せるのか? 新製品ラッシュの2019年を振り返る(2/2 ページ)
2019年に登場した超小型ノートPC(UMPC)を振り返りながら、注目を集める理由と今後を見通してみる。
2019年は超小型ノートPCが変容した年に
19年に登場した超小型ノートPCを一通り評価した内容は、同じITmediaのPC USERに掲載している。キーボードのキータッチやディスプレイの視認性(フォント表示の実測サイズ)、使い勝手、ベンチマークテストで測定した処理能力などの詳しい評価内容はそれぞれの記事で報告している。そこで今回は総まとめとして、それぞれのモデルについて振り返ってみる。
2019年前半は7型ディスプレイ採用モデルの時代が継続
GPD Pocket 2は従来あった同型モデルの処理能力強化版で、ディスプレイは180度までしか開かず、クラムシェルスタイルで使うタイプだ。
一方のOneMix 2Sも従来モデルの処理能力強化版で、ディスプレイを360度開くとタブレットとしても使える2 in 1 PCでもあった。キーピッチは約16ミリと共通で、5本指を使ったタイピングにはやや狭かったが、それでも3本指タイプなら快適だった。キーボードはアイソレーションタイプでどちらもキーを押し込んでボディーがたわむことなく、押し込んだ指の力を確実に受け止めてくれる。
同時期に登場したGPD Micro PCは、さらに一回り小さい6.4型ディスプレイを搭載し、かつ、キーボードは両手親指打ち前提のキーピッチでポイディングデバイスも立ち姿勢で本体を両手で持って使うのに最適化した配置になっていた。そして本体にはアナログRGB出力や有線LANに加えて、シリアルポートも用意するなど、他の超小型ノートPC(に限らず最新のモバイルノートPCとも)とは一線を画する性格を持つ。実際、PCベンダーもこのモデルに対して「道具」「工具」「産業用」という表現をしていた。
2019年後半は8型ディスプレイ採用モデルが主流に
続いて登場したのがCHUWIのMinibookと、One-Netbook TechnologyのOneMix3、そして、その処理能力強化版といえるOneMix3 Proだ。これらは、同じ8.4型ディスプレイを搭載するだけでなく、本体のサイズやデザインなどもほぼ共通する。
また、ディスプレイを360度開いてタブレットとしても使える。ディスプレイサイズが一回り大きくなったことでキーピッチが19ミリとデスクトップPC向けキーボードと同等となり、キータイプにおける運指は両手5本指を使っても擦れることがなくなった。
一方で本体サイズが大きくなったことで本体の重さもMiniBookで660グラム、OneMix3 Proでは659グラムと7型ディスプレイ搭載モデルのOneMix2Sから150グラム近く増えている。
小さいボディーならではの「キーボード」の話
以前から超小型ノートPCでキーボードをタイプする姿は「両手で本体をもって、親指でタイプする」だった。これはHP95LXから続く“由緒正しい”スタイルだ。
しかし、超小型ノートPCの文化が21世紀になってほぼ途絶えてしまうと、そのスタイルは人々の記憶から消し去られてしまった。そのためか、たとえ7型クラスのディスプレイを搭載した超小型ノートPCでも、クラムシェルスタイルのノートPCと同様に「机の上において両手の五本指を使って快適にタイプする」スタイルで使えることをイマドキのユーザーは要求する。
6型ディスプレイを搭載してキーピッチが横方向11ミリなGPD MicroPCであっても例外とならないユーザーが意外と多い。
そのような、ある意味「むちゃな要望」に応えるべく、7型ディスプレイを搭載するGPD Pocket 2もOneMix2Sもキーピッチは16ミリ(一部17ミリ)を確保した。
先ほども述べたように両手10本全てを使うのは無理だが、両手3本ずつなら指がすれることなくタイプが可能だ。さらに、8.4型ディスプレイを搭載したMiniBookやOneMix3、OneMix3 Proではキーピッチ19ミリを実現した。デスクトップPC用キーボードと同等で10本指を使うキータイプでも指がすれないのは先ほど述べた通りだ。
このように、キーピッチの「値」はデスクトップ相当となったものの、その代償としてキーレイアウトに無理がかかっている。GPDの製品にしてもOneMixの製品にしても「O」「P」「L」「M」から右のキーについてはファンクションキーの上段に追加したキーやスペースキーの脇に設けたキーに移動している。これらのキーには日本語入力で使用機会の多い「−」(長音)や「、」「。」があって、文章入力の“テンポ”を狂わせてしまう。
この問題はボディーサイズに余裕ができたはずの8.4型ディスプレイ搭載モデルでもそのままになっている。そのおかげで19ミリというキーピッチが実現できているわけで、キーボードの使い勝手をキーピッチだけで判断するのが“危うい“と分かるケースともいえるだろう。
ポインティングデバイスにおいても懸念がある。立ち姿勢で本体を両手で持って使うことを想定した超小型ノートPCは タッチパッドに相当するデバイスとクリックボタンをそれぞれヒンジに近い本体奥の左右両側に用意する。
一方で クラムシェルPCのように座って使うことを想定している超小型ノートPCは、ポインティングデバイスをモバイルノートPCと同じように設置する。すなわち、クリックボタンをスペースキーの下に、タッチパッドに相当する光学センサーをキーボードの真ん中にそれぞれ取り付ける。
この配置は13型クラスのディスプレイを搭載したボディーならばホームポジションから手を動かすことなく使えて便利だ。しかし、本体サイズが小さい超小型ノートPCでは、キーボードの真ん中に取り付けたポインティングデバイスの存在が“非常に”気になってキータイプがやりにくくなる。
さらにスペースキー下に設けたクリックボタンは、日本語入力変換操作でスペースキーをタイプしようとして誤ってクリックボタンを押してしまう“事故”が多発する。スタイルだけを寄せてもかえって使いにくくなる典型的な例といえるだろう。
超小型ノートPCは今後も人気を集める?
超小型ノートPCは、新製品が出るたびにディスプレイのサイズは大きくなり、搭載できるCPUの処理能力は高くなっている。これは新製品に求めるユーザーの要望が「従来モデルより高いもの」を求める限りやむを得ないところではある。
最新のOneMix3 ProではCPUにCore i7クラスを搭載した構成も用意している。そのベンチマークテストのスコアはモバイルノートPCのハイエンドモデルに匹敵する。今までパフォーマンスに制約があった超小型ノートPCとしては処理能力に可能性を見いだしたという点で注目できる。
一方で、本体重量もモバイルノートPCに近づきつつある。13.3型ディスプレイ搭載モバイルノートPCで最軽量モデルになると700グラム台がある。
対する超小型ノートPCでは8.4型ディスプレイ搭載モデルで660グラムに達する。100グラムの軽量化と制約のある使い勝手、特にキーボードの使い勝手のトレードオフをユーザーがどのように評価するか。これが超小型ノートPCの今後に大きく影響するのではないだろうか。
100グラムの軽量化で得られるものが多くのユーザーの求めるものであったとき、超小型ノートPCの市場はより大きく拡大するだろう(逆のときは言うまでもなく……)。
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