重力波望遠鏡「KAGRA」、観測開始 “宇宙誕生の謎”解明の手掛かりに
東京大学宇宙線研究所などが共同プロジェクトを進めている、重力波望遠鏡「KAGRA」(かぐら)での観測が始まった。欧米の重力波望遠鏡とともに重力波の直接観測を目指す。
東京大学宇宙線研究所などが共同プロジェクトで進めている、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」(かぐら)での観測が2月25日に始まった。岐阜県・池ノ山(旧神岡鉱山)の地下200mに建設した一辺3kmの検出器で、重力波の直接観測を目指す。
重力波は、アインシュタインの提唱する「一般相対性理論」から導き出された、「時空の歪み」が波となって光の速度で伝わる現象。検出可能な重力波は「超新星爆発」や、ブラックホールや中性子星の連星の合体などの激しい天体現象などから発生するとされる。重力波の観測から得られた情報は、宇宙の膨張や宇宙誕生の謎などの解明の手掛かりになるとされている。
重力波が地球に到達した際にはわずかに空間が歪むが、その変化は地球から太陽までの距離(約1.5億km)が水素原子1つ分(約0.1nm)変わる程度の極めて微小なもの。これを検出するために、KAGRAのプロジェクトでは光とハーフミラーを用いた「レーザー干渉計」という検出器を用意した。
KAGRAは「望遠鏡」という言葉から一般的に想像できる天体(光学)望遠鏡や電波望遠鏡とは異なり、レーザー光とハーフミラー(ビームスプリッター)を用いて“距離の差”を計測する。レーザーの発振器から放出された光は斜め45度に設置されたハーフミラーを通り、半分は直角に反射、もう半分は透過する。それぞれの光は3km先にある鏡で反射し、ハーフミラーに戻ってくる。2つの光はハーフミラーで「干渉」を起こすため、光検出器でその干渉縞(模様)を計測すれば光路長の小さな変化を検出できるという仕組みだ。
KAGRAは検出精度を上げるため、誤差の原因となる振動の少ない旧神岡鉱山の地下200mに建設。熱によるノイズも抑えるために、用いる鏡を約マイナス250度まで冷却する。鏡には光学特性に優れたサファイアを使用している。3kmの光路長に関しては欧米の検出器と同程度だが、これらの条件は日本独自だという。旧神岡鉱山は、素粒子「ニュートリノ」を捉える検出器「カミオカンデ」などの建設地でもある。
日本では観測が始まったばかりだが、既に米国では2015年にブラックホール合体時の重力波を検出。17年には欧米の共同研究で、中性子星の連星から発せされた重力波を観測している。欧米の検出器にさらにKAGRAが加わり、共同で検出を行うことでさらなる発見があると期待されている。
関連記事
- “ブラックホールが合体した音”も聴ける 動画と画像で知る「重力波」
13億光年先で起きたブラックホール連星の合体という事件が、時空のさざ波「重力波」として地球に伝わった。快挙を達成したLIGOは豊富な動画と画像でこの発見を説明している。 - ノーベル物理学賞、「重力波」米研究者に 15年に初観測
2017年のノーベル物理学賞は「重力波」を初めて観測した米施設「LIGO」の研究者3人に。 - 「重力波」2度目の観測成功 ブラックホールの“謎”解明へ
宇宙空間の時空の「ゆがみ」を伝える「重力波」の2度目の観測に成功したと、米国の研究チーム「LIGO」が発表した。 - 常識を覆す「惑星」、巨大ブラックホールの周りに存在か 鹿児島大と国立天文台
「全く新しい『惑星』の種族が銀河中心の巨大ブラックホールの周囲に形成される可能性がある」とする世界初の理論を、鹿児島大学と国立天文台が発表した。ブラックホールの周囲10光年程度の距離に、地球の約10倍の質量の惑星が1万個以上形成される可能性があるという。 - 「視力300万」は視力検査でどれくらい見える? ブラックホール観測の“超高精度”を数字で味わう
ブラックホールを観測した望遠鏡の「視力300万」は視力検査でどこまで見えるか計算してみた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.