“送料の一律無料化”延期の楽天、方針転換の理由はあくまで「コロナ」 緊急停止命令の影響は明言せず
楽天が、送料無料化の一律導入を延期すると発表した。楽天の幹部は会見で、方針転換の理由を「新型コロナウイルスの影響」と説明。公取委や地裁の動きに配慮したか否かは明言しなかった。有識者による第三者的な見解として、「当局の介入に慎重であるべき」との声も紹介した。
「新型コロナウイルスの問題が急に出てきて、店舗の生の声を聞いた結果、それでも(送料無料化の一律導入を)やるのはおかしいという判断に至った」――。楽天の野原彰人氏(執行役員 コマースカンパニーCOO)は、3月6日に開いた記者会見でこう説明した。
楽天は6日、ECサイト「楽天市場」への送料無料化の一律導入を延期すると発表した。当初は18日から、税込3980円以上を注文した顧客の送料を全店舗一律で0円にする予定だったが、この対象を「準備が整った一部店舗」に変更した。
準備が間に合わない店舗は、送料無料化の適用対象外にするよう楽天に申請することも可能とし、楽天が承認した場合は、無期限で適用を延期する。送料無料化の適用後に収益が悪化した出店者に支援金を一定期間給付する「安心サポートプログラム」なども始め、賛同した店舗を手厚くサポートする方針だ。
「損失につながる恐れがある」として一部の出店者が反発
楽天市場の送料無料化は、新規顧客の獲得と売上の増加が見込まれる一方で、店舗側が送料を負担する必要がある。そのため、2019年末に楽天が出店者に詳細を通知して以降、「損失につながる恐れがある」として一部の出店者から反発を受けていた。
20年1月には、出店者による任意団体が公正取引委員会に署名と措置請求書を提出。これを受け、公取委は2月10日、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)の可能性があるとして楽天に立ち入り検査した。そうした中でも楽天は方針を曲げず、2月13日の決算会見では三木谷浩史会長兼社長が、予定通り3月18日から送料無料化を適用すると明言していた。
だが2月28日に、公取委は優越的地位の濫用の疑いがあるとして楽天に緊急停止命令を出すよう東京地裁に申し立てた。現在は東京地裁の判断を待っている状況だ。
公取委の動きに配慮したか否かは明言せず
楽天による送料無料化の一律導入の延期と、支援金の給付などの施策は、こうした経緯で発表されたものだ。だが楽天の幹部は、方針転換の理由を「新型コロナウイルスの影響」と説明し、公取委や地裁の動きに配慮したか否かは明言しなかった。
同社CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏も、3月6日の会見では「新型コロナウイルスの影響により、出店者はマンパワーを確保できず、商品の仕入れや在庫数の欠如などが拡大する可能性が大きい」と意思決定の背景を説明。公取委による緊急停止命令の申し立てについては「真摯(しんし)かつ誠実に受け止める」と語るにとどまった。
有識者は「当局の介入に慎重であるべき」
楽天は同日、送料無料化が独占禁止法に定める優越的地位の濫用に当たるか否かについて、慶應義塾大学大学院法務研究科の石岡克俊教授に第三者的な立場からの意見を求めたことを明らかにした。
石岡教授は状況を分析し、「疑義行為とされる施策(=送料無料化)がまだ実施されていない。不公正な取引方法については、競争の侵害が認められた事後に(当局の)介入が認められるのが原則」とし、「送料無料化が他社との競争に重大な影響を与えるか否かは明らかではない」との見解を示したという。
さらに石岡教授は、「重要な施策の実施を阻害するとなれば、むしろオンラインモール事業者間の競争に重大な悪影響を与える可能性がある」と懸念し、当局による事前介入について「努めて慎重であるべき」と述べたとしている。楽天はこうした有識者の見解を東京地裁に説明したという。
送料無料化に賛成する店舗も
公取委による緊急停止命令申し立ての影響があったか否かは明言を避けたものの、結果として出店者に対する強硬な姿勢を崩した楽天。野原氏は会見で、「店舗の売り上げや利益に対する不安や懸念を解消するとともに、ユーザーの声を真摯に受け止めて改善を図る」と、歩み寄る姿勢を強調した。
3月5日には、楽天市場の出店者のうち送料無料化に賛成する店舗が任意団体「楽天市場出店者 友の会」を組織し、公取委による対応を批判したとも報じられている。楽天が態度を軟化し、支持する店舗も出てきているが、東京地裁はどのように判断するのか。
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