見た目、打鍵感、職人技──シンプルそうで奥深いキーボードの「キーキャップ」を深堀り:ハロー、自作キーボードワールド 第5回(2/2 ページ)
PC用キーボードの見た目のほとんどを占める「キーキャップ」。見た目ももちろん大事だが、実はキーキャップにもこだわりどころはいろいろある。最近はキーキャップ自作の動きも。その魅力を見ていこう。
MDAの特徴は、Cherryプロファイルと同様のステップスカルプチャと、キートップ部分が“球状”に削られている「スフィリカル」の組み合わせだ。プロファイルによってこのスフィリカルの面の形状もさまざまだが、MDAのスフィリカルは面が広く湾曲が穏やかで、サラサラとした滑らかな表面仕上げと相まって優しい手触りになっている。
MDA BigBangの素材はPBT。PBTは耐久性・耐摩耗性が高く、キートップがテカテカになりづらいというメリットがある。一方で成形が難しく、二色成形が用いられることはまれで、刻印は「昇華印刷」という手法であることが多い。しかし昇華印刷もインクをプラスチックに染み込ませるため、通常の使用で刻印がかすれてしまうことはまずないと思っていいだろう。
無刻印という選択肢 形状が全て同じの「SP DSA 無刻印」
ここまで紹介したキーキャップはいずれも刻印があり、行ごとに形状が異なるというものだった。これらの形状やデザインは通常の使用では問題がないが、自作キーボードのようなレイアウトが変則的なキーボードではその配置に困ったり、「余りのキーキャップ」が大量に生まれてしまったりということがしばしば起こる。
そういった場合に便利なのが、ステップスカルプチャのように行ごとの形状の変化がなく、どこに配置しても問題ない均一なプロファイルのキーキャップだ。
そんな特徴を備えたキーキャップの一つが、「DSAプロファイル」を採用した米Signature Plastics製の「SP DSA PBT 無刻印」だ。
DSAは前述の通り、行ごとにキーキャップの形状が変わらないフラットなプロファイル。キートップはスフィリカル(球面状)だ。上で紹介したMDAに比べるとスフィリカルの面が狭く、指がピタッと収まる印象だ。
特に無刻印の場合はキーの区別がないため、自由な個数で入手しやすい。1〜10個程度の少量から購入できる上、色の組み合わせで遊べるといった自由度の高さも魅力の一つといえるだろう。
職人技から3Dプリントまで──見た目にも楽しい「自作キーキャップ」の世界
ここまで市販品のキーキャップを紹介してきたが、自作キーボードがあるように「自作キーキャップ」という文化もある。レジンによるアクセサリーのようなキーキャップから、3Dプリント技術によるオリジナルプロファイルのキーキャップまで、その種類はさまざまだ。
職人の技、アルチザンキーキャップ
それらの中でも特にキーキャップを“キャンバス”と見立て、創作性を重視して製作される自作キーキャップは「アルチザンキーキャップ」と呼ばれる。通常のキーキャップの形状をした透明なレジンにアクセサリーやミニチュアを沈めたものや、もはやキーとしての機能を度外視した造形系のものなど、多様なアルチザンキーキャップが作られている。
こういったアルチザンキーキャップはほとんどが手作りであり、販売されるとしてもごく少量で入手が難しい。しかし、最近では通販などで販売される機会も増えている。また、製作手法についても情報の公開が進んでおり、レジンクラフトの一種として自分で作って楽しむ環境も整ってきている。
3Dプリントキーキャップ
3Dプリント技術の発展と低価格な印刷サービスの登場により、3Dプリントでのキーキャップの製造も現実的になってきている。
従来のプラスチックによる射出成形ではオリジナルのプロファイルのキーキャップや、行だけでなく列も含めて全ての位置で形状が異なるようなキーキャップはコスト的に設計や製造が困難だった。
しかし、近年の3Dプリントであれば1セット分のキーキャップを1万円程度で出力でき、実用的な強度と精度が得られる。最近では「3Dプリントアルチザンキーキャップ」と呼べるようなデザインのキーキャップも登場しており、DMM.makeのクリエイターズマーケットでは多数の3Dプリントキーキャップのモデルが公開されている。
今回はキーボードの顔ともいえるキーキャップについて紹介してきた。キーキャップはCherry MX互換キースイッチを採用したキーボードであれば、自作キーボードでなくても楽しめる。目にも手触りにも楽しい奥深いキーキャップの世界に、ぜひ足を踏み入れてみてほしい。
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