エネルギー業界では難しかった“フルクラウド化”に挑戦 発電会社が3カ月でERPをAzureに移行するまで(2/3 ページ)
発電会社のJERAは、エネルギー業界では珍しく、システムのフルクラウド化を目指している。まず2019年11月に「Microsoft Azure」を導入し、20年2月にはERPをオンプレミスからAzureに移行。現在はその他のシステムをAzureに移行中だ。同社はなぜこうした施策に踏み切ったのか。
3カ月という短期間でSAP ERPをAzureにリフト
クラウド化のプラットフォームに選んだのはMicrosoft Azureだ。JERAはグローバルでビジネスを展開しており、それに対応できる世界水準のクラウドサービスが必要だったからだ。SAP ERPのクラウド化に当たり、データベースとなる「SAP HANA」の稼働実績の面でも、Azureの対応の幅広さを評価した。
また、オンプレミスのSAP ERP環境をIaaSにリフト(通常のクラウド移行)するだけでなく、今後のシフト(クラウドの特性を生かす形での移行)も視野に入れ、Azureを選んだという。「Azureに含まれる新しいクラウドサービスを使うことで、JERAのITシステムの将来像を描けると考えた」と藤冨氏は話す。
19年4月からインフラのフルクラウド化を本格的に検討し、7月から具体的な設計を始めた。フルクラウド化プロジェクトには、IT部門の約80人のうち20人ほどが参加。クラウドインテグレーションに強みがある新たなパートナー企業も迎えた。
クラウド化の取り組みと並行し、それまでベンダーに依存していたIT部門の体制変更にも着手。開発などの内製化にも取り組み始めた。
こうして19年11月にクラウド上でインフラ構築を始め、およそ3カ月でSAP ERPのAzureへの移行を終えた。続いてERP周辺にある燃料取引リスク管理システム、燃料貯蔵品管理システム、通関業務支援システム、連結決算システムなど20個のシステムもAzure移行に取り組み、20年5月30日に完了した。
マネジメントでは苦労も
「極めて短期間でこれらの移行を実施したことで、苦労も多かった」と藤冨氏は振り返る。グローバルでビジネスを展開する同社では、Azureへの移行プロジェクトに外国人のメンバーが多く参加しており、多様性の高いチームでのコミュニケーションの取り方に苦労したという。
文化の違い、コミュニケーション方法の違い、開発手法の違いがあり、普段とは勝手が違う中で、短期間でチームを戦力化しなければならない。藤冨氏らは、スムーズにチームを運営するために、初期段階でメンバーがお互いの違いを理解できる場を持つことに時間を費やした。
そんなプロジェクトチームのモットーは「スピーディー」。これはJERAの企業全体のコンセプトでもある。これをメンバーが意識し、実践し始めたことで、徐々にチームはまとまっていった。今回のプロジェクトでは、クラウドの特性を生かして柔軟に仕様を変化できるよう、開発スタイルもウオーターフォール型からアジャイル型に変更した。
開発スタイルの変更後は、チームメンバーは全員でハンズオンを行うなどし、藤冨氏らの指示ではなく、自ら考えて動くようになった。結果的には「ベストかどうかは分からないが、多様性の高いメンバーでプロジェクトをスムーズに進めることができた」と藤冨氏は話す。
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