IaaS市場はなぜ伸びている? 大手3社の戦略の違いは? クラウド業界事情を基礎から徹底解説(2/5 ページ)
クラウドは2000年代半ばに登場した比較的新しい技術でありながら、現在では当たり前の存在となった。目まぐるしく変化を続けるクラウドへの理解を深めるため、市場の中でも特に成長が著しいIaaS領域に着目し、世界の主要ベンダーとその動向をみていこう。
IaaS市場の成長トレンドが続きそう
Gartnerがまとめた、世界のパブリッククラウド市場の推移を予測したレポートによると、同市場全体の規模は18年の時点で1967億ドル(現在のレートで約21兆円)。そして、22年には約1.8倍の3546億ドル(約38兆円)に成長する見込みという。
このうち世界IaaS市場の規模は、18年の324億ドル(約3.5兆円)から22年の741億ドル(約7.9兆円)へと約2.3倍に成長する見込みだ。
その背景にあるのは、社会全体のデジタル化だ。さまざまな企業がデジタル変革(DX)を進め、多くの業務やサービスがデジタルに移行する中で、より大規模なITインフラが求められるようになっている。
ITインフラはそれまで、企業がオンプレミスで構築するのが一般的だった。しかし現在、技術革新や有力サービスの登場によって普及が進み、「DX推進に向けて迅速なITインフラを確保したい」といったニーズを満たす存在としてIaaSの存在感が増している。
また昨今は、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、動画サービスやWebメディア、ECサイトのトラフィックが急増しており、オートスケーリングなどの機能を持つIaaSの需要が高まっている。“巣ごもり需要”を追い風に、IaaS市場の成長トレンドは今後も続きそうだ。
エッジコンピューティングが台頭
順調に伸び続けるIaaS市場だが、昨今はその状況に変化をもたらしそうな現象が起きている。それはエッジコンピューティングの台頭だ。エッジコンピューティングとは、システムのエッジ(末端)側で発生したデータの処理を、離れたところにあるデータセンターではなく、ある程度ユーザー側の端末に近いコンピュータやサーバ(=エッジ)で行ってしまう仕組みだ。IoT時代に突入し、多種多様なモノが大量のデータを生み出す状況に効率的に対応する手法として注目されている。
エッジコンピューティングは既に活用されているが、それがさらに拡大すれば、従来はクラウド上で行われていた情報処理がエッジ側に移される。つまりITインフラを提供するIaaSにも、それに応じたサービス形態が求められるようになる。
それが業界の構図をどう変化させるのか、正確に予測するのは難しいが、Gartnerは自社のブログで、既存のIaaS事業者に対して「顧客企業のエッジでの取り組みに対応していないため、大きなビジネスチャンスを逃している」と指摘。積極的にエッジコンピューティングのソリューションを開発するよう呼び掛けている。そのような状況では、新たなビジョンを掲げ、それを実行する力を持つリーダーたる3社の動向がますます重要になるだろう。
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