フォグゲーミングでゲーム体験はどう変わる? 提供スタイルは? 西川善司がまとめて質問に答える:クラウドゲーミング? いいえ、フォグゲーミングです(2/3 ページ)
セガのフォグゲーミングを世界に初めて紹介した西川善司さんによる解説。後編の今回はQ&Aを含め、詳細にその将来像を描く。
セガのフォグゲーミング構想についてさらに考察を進めてみる
ここまででセガが開発を進める「フォグゲーミング構想」についての基本を押さえたと思うので、ここからは件のファミ通記事が掲載されてから、筆者の周辺から寄せられた疑問や質問について、筆者なりの推測や考察を述べさせていただこう。
なお、以下に示した内容は筆者の私見であり、セガの公式回答ではない。そのあたり十分にご理解いただいたうえで読み進めていただきたい。
【Q】フォグゲーミング対応システム基板はいつ出てくるの?
筆者が知りようもないが、セガのゲームセンター向け(アーケードゲーム機向け)システム基板は、PCベースになって以降は、
発表年 | 名称 |
---|---|
2005年 | LINDBERGH |
2009年 | RING |
2013年 | Nu |
2017年 | ALLS |
と、きっちり4年サイクルで刷新されているので次の更新は2021年と予測できる。
仮に2021年にシステム基板の刷新があったとしても、このタイミングでフォグゲーミング対応に踏み切るかどうかは分からない。
2009年に発表されたシステム基板「RINGEDGE」のCGイメージ。対応タイトル第一弾は「BORDER BREAK(ボーダーブレイク)」だった。CPUに Intel製Pentium Dual Core E2160、GPUにNVIDIA製GeForce 9600GSを採用。ストレージはSATA接続型SSDだった
【Q】ゲームセンターにおいてシステム基板がフォグゲーミング対応に置き換わったとして、その運用スタイルはどう変わるか?
上でも触れているが、フォグゲーミング対応システム基板では、おそらく、1枚のシステム基板で複数のゲーム筐体に対してゲームプレイを提供できる設計になる可能性が高いので、「1筐体に1枚のシステム基板」という従来の概念にとらわれる必要がなくなる。
であれば、システム基板を一箇所に集約して管理する方が自然だし、メンテナンス性の面からもそうした方が合理的だ。何かしらのトラブルがあったときに、現在のような、お客さんの目の前でゲーム筐体を開いてメンテナンスするスタイルは前時代的になるだろう。
ゲーム筐体内に1台ずつシステム基板を収納させる現在の運用スタイルでは、悪意のある人物によるシステム基板に対する破壊活動、ハック活動への対応にも脆弱すぎる。
また、フォグゲーミング対応システム基板は相対的に、これまでのシステム基板よりもCPUとGPUの性能が高くなり、搭載メモリやストレージ容量も大きくなる可能性は高い。となれば、電源管理、廃熱管理については安定的なものが求められるはず。現在のようにゲーム筐体の中に封入されるような運用スタイルはかなり厳しそうに思える。
以上を踏まえれば、例えばの話だが、スタッフルームやロッカールームの一角に、それなりの冷却機構が整った筐体やラックマウント収納される外観となるかもしれない。いずれにせよ、集中管理できた方がメンテナンス性、セキュリティの視点からも合理的なのは間違いない。
【Q】ゲームセンターの中のシステム基板がフォグゲーミング対応に置き換わったとして、店内で稼働する筐体上のゲームも店舗外向けサービスと同様のクラウドゲーミング的な実装になるのか?
前出の質問に関係の深い質問だ。
システム基板がゲーム筐体外……例えばスタッフルームに設置されていたとして、ゲームセンターにやってきたプレイヤーは店舗内のゲーム筐体の前に座ってプレイすることになる。この場合、コンピュータ本体(システム基板)とゲームコントローラーは同じ施設内とはいえ、ある程度離れた位置関係になる。その距離は、大型店舗では数十メートルにも達することだろう。
であれば、スタッフルームのシステム基板とゲーム筐体はネットワーク(LAN)で結ばれ、ゲーム筐体側にはクラウドゲーミングのプレイと同様の、何らかの端末が搭載されていて、プレイヤーはこの端末を通してプレイすることになるのだろうか。つまり、イメージ的には、PS4のゲームをPC、Mac、スマートフォンでプレイするような「リモートプレイ」スタイルのようなものになるのだろうか……というのが質問の主旨だろう。
ゲームタイトルによってはそうなる可能性も否定できないが、たかだか数十メートルの距離であれば、HDMIやUSBのリピーター機器(信号を増幅して延長する機器)を使えば、「リモートプレイ」スタイルをとらず「ローカルプレイ」スタイルでの運用も可能だと、筆者は思う。
【Q】ゲームセンターをデータセンターにする発想は面白いが、フォグゲーミング構想で提供されるゲーム体験は、ゲームセンターで稼働しているゲームのみになるのだろうか?
私見ではあるが、おそらく第一ステップとしてはそうなるのだと思う。
最初期のフォグゲーミングでは、主軸を「ゲームセンターでのゲームプレイ」に置いた上で、「ゲームセンターでプレイしているプレイヤー」と店舗外プレイヤーとの相互マッチングなどに注力するのではないか。もちろん対戦プレイ、協力プレイのスタイルがサポートされることだろう。隣接する店舗同士のマッチングなどもあり得そうだ。
そして、ゲームセンターの営業が終了した際には、店舗外プレイヤー達同士のマッチングによる、プレイもサポートされることだろう。
次のステップでは、よりフォグゲーミング対応システム基板の性能レベルが上がり、仮想化の度合いも上がれば、複数の仮想マシンを動かし、複数のタイトルをそこで動作させ、ゲームセンター店舗内外のプレイヤーにゲーム体験を提供することに発展しそうだ。
これは、フォグゲーミングの展開先を「店舗内に限定したケース」においても有効に機能しそうだ。
例えば、大型スーパーマーケットの最上階などにあるゲームコーナーのゲーム筐体(昆虫や恐竜同士が戦うゲームや、特撮ヒーローや国民的アニメキャラを題材にしたゲームが動いているファミリー向け、キッズ向けのゲーム筐体)は、内容がシンプルなので、1枚のシステム基板で複数台の筐体分のゲーム体験をオペレーションすることは可能なはずだ。そうなれば、導入コスト、運用コストの面でメリットが出てくると思う。
さらに進めば、フォグゲーミング対応システム基板のコンピューティングパワーを、ゲームセンター向けゲーム以外のゲームタイトルを動かすことにも活用し、そのゲーム体験をゲームセンター近隣のユーザー(プレイヤー)に提供するといった展開も考えられる。
例えば、リアルタイム性が要求されるマルチプレイ型のスマートフォン向けのゲームは、フォグゲーミング・プラットフォームにはおあつらえ向きだろう。
プラットフォームとしての認知が進めば、セガ以外のゲームスタジオが制作したタイトルの運用も広がりを見せるはずで、もしそうなれば、このフォグゲーミング・プラットフォームは、かつてのドリームキャスト以来の「セガのゲームプラットフォーム」ということにもなる(笑)。
究極的には、フォグゲーミング・プラットフォームをゲーム以外の用途にも活用してもらう……というソリューションにまで進むこともありうる。これは「妄想がいきすぎ」という指摘もありそうだが、実はセガ側でもそうした未来像を見据えてフォグゲーミング構想を進めている。
実際、筆者が取材したフォグゲーミング構想開発関係者は、「フォグゲーミング構想では、最終的にコンピューティングパワーの路上自販機となることを目指している」と述べていた。
フォグゲーミング対応システム基板のコンピューティングパワーを、一般的なビジネス用途の仮想マシンとして提供したり、映像制作スタジオ向けのレンダリングファームなどとして利用してもらったり……といったことまでを想定しているのかもしれない。
筆者としては、フォグゲーミング・プラットフォームは超低遅延がウリなので、その部分にシビアな性能が求められるAR/VR事業用途に期待を抱いている。こうしたアプリケーションは、それこそ5Gの携帯電話網との親和性も良さそうだ。
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