「たかがケース」とあなどることなかれ 奥深い「自作キーボードケース」の世界:ハロー、自作キーボードワールド 第7回(3/3 ページ)
今回は、マニアなら誰もが知っているが一般的にはまだまだ認知度が低い、自作キーボードキットを選ぶ上での判断材料にもなる重要パーツである「ケース」について紹介する。
アクリルサンドイッチ系
アクリルサンドイッチ系のケースの最大のメリットは、構造が単純で設計や製造がしやすいため、比較的安価にケースを作れることだ。少量を短期間かつ低コストに製造できるため試作と修正がしやすいのも、国内の多種多様な形状の自作キーボードキットがアクリルサンドイッチ系のケースを採用する理由となっている。
アクリルサンドイッチ系ケースのメリットはなんといっても安価であることだが、前述したように「底打ちの柔らかさ」に関しても優れた素材であり、設計次第ではしなやかな打鍵感と落ち着いた打鍵音が得られる。一方で素材としては軽く剛性も高くはないため、キースイッチの場所による打鍵感のばらつき・たわみがあったり、側面が閉じられていないケースでは中にホコリが入ったり音が響いてしまったりといった構造上の弱点もある。
アクリルサンドイッチ系ケースの自作キーボードキットは安価なものが多く、そのボリュームゾーンは1万〜1.5万円程度だ。
金属削り出し系
金属削り出し系は塊の金属から彫刻のように削って形を作るため、ある程度自由な形状を作りやすい。
加工のしやすさと強度や入手性のバランスから、ほとんどの場合アルミが素材として選ばれる。キーボードとしては十分な剛性が得られ、金属光沢で外観も美しく人気がある。ただしアルミだけではケースが軽くなりすぎてしまったり、金属音のキンキンとした共鳴が起きてしまったりするため、高価なキーボードでは真ちゅうなどで重りを追加することが多い。
金属削り出し系ケースのメリットはその優れた打鍵音にある。ノイズの少ない打鍵音を実現するためにはケースの重量を増すのが手っ取り早く、その点において金属削り出しケースに優位性がある。また、ケースの剛性も高いためしっかりとした打鍵感が得られやすい。
一方で、剛性が高すぎることが裏目に出て、設計や材質に気を配らないと打鍵感が硬くなりすぎてしまう。また、3次元形状の設計が必要で製造も難しく高コストなため、開発期間が長くなる傾向にあり、日本の自作キーボードキットに見られるような複雑な形状が作られることは少ない。そして、どうしても高価になる傾向にある。
金属削り出し系ケースの自作キーボードキットの価格は近年こなれてきてはいるが、それでもおおよそ3万〜5万円程度が主流で、中には10万円を超えるようなキットもある。
ケースを知ることで自作キーボードを選ぶ視野が広がる
自作キーボードキットをどう選ぶか、というのは難しいテーマだろう。分かりやすいのは目で見て分かる特徴で、色やデザイン、キースイッチの配列、分離型か一体型か、などのスペックを財布と相談して選ぶことが多いかと思う。今回紹介したケースの役割を知っておくと、より深く各キットの特徴を理解し、自分に合ったキットを選べるようになるだろう。
安価でバリエーションに富むアクリルサンドイッチ系を集めるもよし、高価でも最高の打鍵感・打鍵音を求めて金属削り出し系に一点張りするもよし、幸せな選択に頭を悩ませてみてほしい。
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