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iPhoneにArmコアが載った日 その前日譚を技術と人脈から解説するApple Siliconがやってくる(2/3 ページ)

いよいよ、AppleがiPhoneにArmを採用するわけだが、実はその前、Newtonの後にもArmは使われている。

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初代iPhoneに搭載されたアプリケーションプロセッサを読み解く

 さてそれではその初代iPhoneで採用されたアプリケーションプロセッサはこんな感じ(写真3)。

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写真3:上の左を向いているのがアプリケーションプロセッサ、下はフラッシュメモリ、右はおそらく電源管理チップと思われる

 Appleロゴがあるチップの刻印は、

  • “339S0030 ARM”
  • “8900B 0722”
  • “NODTAMV2”
  • “K4X1G153PC-XGC3”
  • “ECD263GD 719”

であるが、この4行目はSamsungのMobile DDR-SDRAMの型番で、ここからARMコアのCPUにMobile DDR-SDRAMを重ねたMCP(Multi-Chip Package)であると推察される。“339S0030”はAppleが付けた型番であり、このままでは分からないのだが、実は2行目の“8900B”はSamsungの「S5L8900」とというアプリケーションプロセッサの型番から取られたもので、ベースとなるのは412MHz駆動のARM11ベース(ARM1176JZF-S)に「PowerVR MBX Lite」というGPUを組み合わせた製品と推察される。もっともこれがそのままというわけではなく、iPhoneでは多少カスタマイズが施されたと思われる。

 ちなみにこのチップは構成を変えて、iPod Classic/iPod touchに利用された模様だ。そのままではないのは、iPhoneと異なり、iPod系は128MBものメモリは不要だったためだろう。恐らく積層するMobile DDR-SDRAMの数を減らしたものと思われる。

 ということで、以後はiPhoneやiPadなどに話を絞る。表1はiPhone初代からのプロセッサの構成一覧である。

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表1

 まずは412MHz駆動のARM11をベースとしたプロセッサでiPhoneを立ち上げたAppleだが、性能的には必ずしも満足できなかったのだろう。翌年登場したiPhone 3Gでは、動作周波数を620MHzまで引き上げている。ただその結果として、iPhone 3Gでは「思ったほどバッテリーが持たない」という声が上がるようになった。理由の一つは3GモデムとかAGPSといった新しい(≒消費電力の大きい)デバイスを追加したこともあるが、CPUの消費電力も引き上げられたことも要因に挙げられよう。

 同じSamsungの90nmプロセスを使っている以上、動作周波数に比例する以上のペースで消費電力が上がるのは避けられない。また、性能的にもこれ以上ARM11の動作周波数を引き上げるのは難しいし、多少引き上げたところで性能的に十分とはいえなかった。

 ちょうどいい具合に(?)Samsungが65nmプロセスでCortex-A8を搭載した次のアプリケーションプロセッサを開発していた。これは2009年に投入されるが、Appleはこれを他社に先んじて採用し、次のiPhone 3GSに搭載する。消費電力的な問題なのかどうかは分からないが、本来は677MHz/833MHz動作のS5PC100を600MHz駆動に落としての利用である。ただSingle IssueのARM11と比較すると、In-Orderなら2 Issue SuperScalarのCortex-A8は2倍とまではいかないまでも1.5〜1.6倍の性能を実現できるだけに、とりあえずはこれで良いと判断したと思われる。

 ただこうした形でアプリケーションプロセッサのデザインそのものをSamsungに依存するのはApple的には必ずしも好ましいとは思っていなかっただろう。

 最終的には自社で設計するプロセッサを搭載する、という方向性はスティーブ・ジョブズCEOがいかにも好きそうな路線ではあるが、一足飛びにそこまで突っ走ることはできない。Appleはそもそも大規模なSoCを自社で設計する能力を持ち合わせていない。Apple ][からIntel Macの時代まで、回路設計はもちろん自分たちで行ってきたが、チップ供給は常に他社に頼っていたからだ。

 Newtonですら、チップの開発そのものはARMとVLSI Technologyに委託しており、Appleは仕様策定に加わっただけだった。となると、何をすべきかといえば、先端SoCの製造に長けた設計チームを丸ごと買収するのが一番理にかなっている。そんなわけで2008年4月にP.A.Semiという、PowerPCベースの省電力SoCを作っていた米国の会社を突如買収した。

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