政府の「携帯料金値下げ」は何が問題か 競争を削ぐ“その場しのぎ”の先にあるもの(2/2 ページ)
菅内閣が掲げる「携帯電話料金の値下げ」には問題が多い。どこがポイントなのか。
そもそもの課題は「多様性促進」の欠如にある
さらにいえば、「安さで競争が起きる」と単純に考えるのは、実は間違いではないか……と筆者は思っている。
MNPの手数料を撤廃するなど、政府も競争施策は行なっている。だが、そもそも携帯電話の契約を「変えたい」と思っている人は少数なのだ。料金やサービスでよほど分かりやすい差がない限り、切り替えは増えるものではない。もし安いだけでいいなら、楽天モバイルはもっともっと増えていいはず。増えていないということは、「安さだけで契約を切り替えるわけではない」ことの証明ともいえる。ほとんどの人は、面倒くさいことはしたくないのだ。
価格面以外での競争も促進するには、回線利用の柔軟化が必須だ。例えば、現在のMVNOは定額サービスを提供しづらい。回線を借りているからそれがやりづらいからだが、定額でなければ料金が高くなる可能性もあり、不安感から「安いものに切り替えられない」人もいる。
本来は、容量や時間に制限があるから安いものがあってもいいし、そこまで安くないが速度は遅くて定額、というものがあってもいい。通話だけ定額、もあっていいはず。サポートなどは最低限で安く、というところもあっていいし、逆に「いつでも分からないことは聞ける代わりに高い」サービスがあってもいい。
なのに現状、結局「大手は全部揃っていて妥当」だから、大手優位が続いている。サービス構築の自由度を高められる時代が来ないと、本当の意味での競争は起きない。
日本人の中に、「サポートは無料」と思っている部分がまだあるのも事実だろう。そこに手を入れる必要もあるかもしれない。
技術的に言えば、4Gまでの携帯電話ネットワークではある程度限界があるのも事実だ。5Gになればサービス構築の自由度は上がる。早急に日本中で5Gを普及させ、MVNOでも5Gを利用可能とし、5Gの上で競争を促進する「加速型政策」があってもいいだろう。
価格を下げる施策は結構なことだ。だが、それは競争と「将来的に価値のあるインフラ」が伴っていないと意味がない。業界から力を奪う形で価格だけを下げると、日本の優れた携帯電話インフラが失われかねない。
今年は日本を出ることが少ない生活をしているが、筆者は昨年まで毎月のように海外に出ていた。その度に、「ああ、こんなに災害の多い国で、こんなにしっかりとした携帯電話インフラがあるというのは、なんて素晴らしいことなのだろう」と感動してきた。本当にそうなのだ。
その強みを、単に国民から人気を得たい、というだけで失ってはいけない。その上で、「コストが高すぎる」という声にも耳を傾けなければいけない。
そういうグランドプランが、政府からは全く見えてこない。10年近く、結局「下げないと」「問題だ」というフレーズに引っ張られた政策だけが展開されてきた。
デジタル関連政策を聖域なく見直すなら、携帯電話関連政策についても、ぜひ「根っこから」見直してほしいと思う。
「競争はいらない。国の主導で統制的に国際競争力も、品質も維持できる」と思っているならそういえばいいのだ。とても現状では納得できないし、そういうやり方がいいとは思えないのだが。
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