AIに負けるな──イーロン・マスク「Neuralink」の狙いは「人類の能力の拡張」 脳を読み取る「ブレイン・マシン・インタフェース」開発の今(4/4 ページ)
イーロン・マスク氏が立ち上げたNeuralinkを中心に、「ブレイン・マシン・インタフェース」開発の今を解説する。
BMIでAIと脳を接続? 記憶を外部サーバにバックアップする未来
AIが人間の能力を超えるというマスク氏の懸念も、埋め込みチップを介して脳と外部のAIを接続し、例えば計算能力や予測能力などをAIによって補うことで解決できるかもしれない。
脳は年齢とともに記憶能力などが低下していくことが知られているが、それも適切にモニタリングして刺激を与えることで能力を維持し、さらに改善できる可能性がある。既に初期アルツハイマー病モデルマウスの脳神経を刺激して、失われた記憶を取り戻すことに成功した日本の研究があり、他にも脳の神経に刺激を与えて活性化させることで、記憶力を平均15%向上させた研究もある。そもそも失いたくない記憶は埋め込みチップを通じ、外部サーバにバックアップしておくというのも技術的には可能だろう。
もちろん、このような未来にプライバシーはどうなるのかといった厄介な問題はついて回る。一部の人だけがこれらの技術を手に入れた場合の危険性なども議論するべきであり、慎重な社会実装が求められる。しかし、ブレインテック技術が世に出回った時の影響が非常に大きいことは間違いない。
米コロンビア大学の神経生物学者であるラファエル・ユステ教授は、社会を変革したコンピューティングの大きな進歩として「メインフレームコンピュータからパーソナルコンピュータへの移行」と「スマートフォンなどモバイルコンピューティングの出現」の2つを挙げているが、外科的な手術を必要としない非侵襲的な脳を読み取る技術は、3番目の変革をもたらすだろうと述べている。大きな可能性を持つブレインテックから目が離せない。
著者プロフィール
著者:平井祐希
株式会社メディアシーク コンシューマー事業部 チームリーダー
2016年、東京大学文学部を卒業後、株式会社メディアシークに入社。
2017年より累計3000万ダウンロードアプリ「アイコニット」のマーケティングと新規事業ブレインテックを担当。 「ブレインテックを世の中に広めていく」ことをミッションとして掲げており、2019年11月には中国・深センを訪れブレインテックの現状を視察するなど海外動向にも常にアンテナを張っている。
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