Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米テキサスA&M大学、テキサス大学、ワシントン大学の研究チームが開発した「Organ-specific, multimodal, wireless optoelectronics for high-throughput phenotyping of peripheral neural pathways」は、ワイヤレスで機能する小型デバイスを手術で胃に埋め込み、胃の迷走神経(脳と胃を繋ぐ神経経路)を光で照射し刺激することで満腹感を錯覚させる手法だ。空腹状態でも満腹感を得られ、食欲を抑制することで、肥満の改善や長期的な防止につながるという。
Harvesterと呼ぶ小型デバイスは、半径5.5mm、厚さ1mmの電子回路部と、幅0.4mm、厚さ0.2mmの細長いテザー(ひも)で構成される。小型であるため、胃バイパス手術よりも簡単な外科手術で埋め込める。
デバイスは、外部とワイヤレスで通信するために必要なマイクロチップが収容され、テザーの途中にLEDを備えている。外部からのワイヤレス操作で、LEDに電力供給するための少量の電流を生成する。
満腹感は、入ってきた食べ物により胃が広がり、その拡張刺激が迷走神経を通して脳の神経に送られることで得られる。今回のアプローチは、迷走神経にLEDの光を照射し脳の神経に拡張刺激を送ることで、胃に食べ物が入っていないにも関わらず満腹感を誘発させる試みだ。
胃への光刺激が満腹感を誘発させられるのかの実験では、マウス8匹に対して同時に刺激制御できるシステムを用いた。重要なのは覚醒している状態で光刺激を与えること。通常、起きている時間に食欲を抑えたいからだ。
前実験では、デバイスを移植したマウスとデバイスは入れないが手術は行ったマウスを用い、通常の食事に影響が出ないかを調べた。移植後でも通常と変わらないことから、覚醒しているマウスでも正確な計測が行えることを確認した。
本実験では、移植から治癒したと想定される数週間後、マウスを一晩(16時間)絶食させ、翌朝再給餌した。移植したマウスは光刺激をしなかった場合と比較して、再給餌中の食物摂取は抑制された。より高い刺激頻度では摂取をほぼ完全に抑制した。
青色の光を受けると陽イオンを細胞内へ流入させ神経細胞を強力に活性化させるチャネルロドプシン2(ChR2)を使用しないグループのデバイスのアクティブ化は、摂食行動を変化させなかった。この結果は、チャネルロドプシン2を与えないと、ただの光刺激だけでは効力を発揮しないことを意味する。
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