ライターがいいマイクを買い、普通の人がライティングする時代 小寺・西田の2021年新春対談(後編)(2/2 ページ)
小寺信良さん、西田宗千佳さんの対談、今回はAppleとIntelのチップ戦略、テレワークで変わった価値観、そしてHDRについて語っています。
一人歩きするHDR
小寺 そんなわけで、今年流行るもの、みたいなのを考えていきたいですけど、なにかありますか。
西田 そういう意味では、2020年に来たけどうまく活用できてないのが、スマートフォンでのHDR動画撮影。
小寺 ああー、確かにね。
西田 iPhone12のHDRってやっぱりすごいなと思って。ただあれは、良くも悪くもiPhoneで見た時に一番綺麗にできてるので、それをどう外に出していいかとか、Appleが情報を出さなすぎる。
小寺 うん。CMはしてるんだけどねぇ。
西田 さらに言うと、他で快適に見るための方法論というのもまだ出来上がってないわけじゃないですか。今までカメラでHDRで撮るって、一部の一眼でHLGで撮って、カラースペース合わせて、みたいな、ものすごくプロのものだったのが、いきなり普通の人のものになって。
それって、画質――体験する画質を上げる、という意味ではすごく重要なことだと思うんだけど、今は撮れるんだけど使われてないじゃないですか。なぜなら、YouTubeにアップロードすると白飛びしちゃうし、観てるディスプレイによって色はガチャガチャだし。きちんとしたノウハウも、ソフトウェアもないので、もしかするとそこはひとつポイントなのかなと思ってて。
小寺 うん。
西田 一方で、カメラという世界を考えると、HDRのコンシューマー化というのはいよいよやっと来るのかなと。それは、一眼とかでHDRを撮れるようになっていた、というのとはちょっと別の方向性としてくるんじゃないか、という感触がちょっとあるんですよね。
小寺 うん。スマートフォンが対応したことでね。やっぱり一番身近なカメラですからね。僕はHDRとかHLGとかが撮れるカメラのレビューで、サンプル動画をHDRで作ってYouTubeに出したりとかしてたんだけど、最近はちょっとやめていて。
西田 うん。
小寺 逆に、HDRをカラーグレーディングしてSDRにして、サンプルを出してるんですよ。というのはみんなね、YouTubeにHDR対応で載せても、HDRで見られてない。
西田 うん。見れてないです。
小寺 (笑)。だから無駄だな、と思って。
西田 そうそう。iPhone12のレビューの時に、「こんな白飛びした動画を上げるなんて!」と言われて、「いや、それはあなたが見れてないんです」っていう(苦笑)。ああ、そうじゃないんだ、ってなって。
小寺 そうね。だから最近はカラーグレーディングしてSDRのパリッとした映像に落とし込んだほうが反響がいいというか、感触が良くてね。
西田 本当はね、みんなHDRのテレビを最近は持ってるんだから、もうちょっとテレビがきちんと見れる環境を整えてくれればいいんですけど、これもまたね……大変じゃないですか。
小寺 そうなのよ。例えば、テレビに映すソースってトリキリ(画面いっぱいにそのコンテンツだけを表示すること)だし、なんらかの動画サービスにアクセスしても、トリキリの画が出た時に初めてHDRになるわけで、UI自体はHDRじゃないじゃないですか。
西田 そうですよね。
小寺 僕、今はHDRが映るテレビにMacの画面を映して仕事してるんだけど、でもパソコン、macOSのUI自体はSDRでしかないので、それでHDRは編集できないわけですよ。HDR対応の映像出力をちゃんとつけて、別モニターとしてテレビにトリキリで映せばHDRで見られるんだけど、すごくコストをかけてそれやっても大した人数見れてない、というのが分かったので(苦笑)。HDRは今のところ、動画を作る側がコストに合わない。
西田 そうなんです。
小寺 プロフェッショナルは違いますよ。プラットフォームにコンテンツ納品すればHDRで観てくれるから、やっても全然効果があるんだけど、普通の人がサンプルをYouTubeに出すぐらいだったらHDRを頑張ってもあんまり報われないという。
西田 本当はね、みんながスマホで見てるんだったら、FacebookとかTwitterとかインスタに上げた動画がHDRで撮影されたものだったら、as isで見れるぐらいになってくれるべきなんですよね。
小寺 そうそう、そうなんですよ。YouTubeでもいいんだけど、それだったら全然話は変わるんですよね。
西田 うん。やっぱりそれは、あまりにもHDRで撮れる環境が少ないし、見られる環境も少ないから、一部、面白い、綺麗だ、と感じてる人がいる、というレベルになっちゃってるので。それが変わって少し増え始めるのが2021年かな、とは期待したいんですけどね。
小寺 あとね、コンシューマーにおいては、HDRというものの定義がすごく曖昧になってきてる感じがあります。
西田 あっ、それはその通りだと思う。
小寺 僕、この間iPhone12 miniのレビューをしたんですけど、あれってディスプレイが500ニトなんですよ。
西田 はい、そうです。
小寺 僕らHDRコンテンツを作る時のモニタリングって1000ニトないとちゃんと見られない、というのがプロでは常識なので。
西田 そうですね。
小寺 iPhoneのディスプレイは厳密にはHDRじゃない、みたいなことを書いたら、「こいつこんないい加減なこと書いて大丈夫?」みたいなことが書かれていてですね、はてなに(苦笑)。いや、大丈夫じゃないのはお前のほうだよ、って言いたかったんですけど。なんかね、HDRの定義が甘くなってる感じがあります。OLEDだったら大丈夫、みたいな感じになってきてるのかなあ。
西田 多分。結局、ダイナミックレンジが見た目出てればHDRだろ、みたいな、ユルさはありますよね。
小寺 スマホメーカーも、ディスプレイを売りにする時に、ちょっとHDRという言葉を安売りしちゃったのかな、という感じもあるんですよね。メーカー公式が400ニト、500ニトとかのディスプレイでもHDR、みたいに言い出すと、みんな「そんなもんか」と思っちゃうじゃないですか。
西田 うん。
小寺 あとね、HDRの特性をフルに生かした画を撮るって、けっこう大変なんですよ。
西田 や、その通りです。
小寺 光源入れ込みで、シャドウもあって、0から1023までダイナミックレンジがあって成立する画って、なかなか撮れないですよ。そんな簡単に。
西田 うん。
小寺 なので、HDRで出しても「期待したほどじゃないね」とか言われたり。今のところ頑張って撮ってもあんまり報われてない感じがあるよね。
西田 結局、iPhoneが綺麗に見えるのって、ディスプレイと撮る環境が一対一対応してるから綺麗に見えてるんだと思ってるんですよ。それはいいとして、それをもうちょっと広げましょうよ、というところに対して、各メーカーはどう考えてるのかな、と。HDRをみんな売りにするならそこは考えてほしいし、決して価値がないものじゃない。
日常をパッと撮っても、確かに0〜1000のデータは入ってないけど、今まで入ってなかった800〜1000ぐらいのきらめきが入ってたら夏っぽくなったりとかするわけじゃないですか。
小寺 基準が曖昧になる感じがありますね。one by oneで解決しちゃうと、基準は別になくてもいい、基準はこのハードウェアだ、ということになっちゃう。
西田 俺が法律だ、になるじゃないですか。
小寺 そうそう。だから、“外に出す”という感覚は、たぶんスマホの世界にはない。頑張ってやっても自分たちにリターンがないから。
西田 うん。それは全体的にある気がします。それに写真もクサいんですよね。写真撮るとHDRのデータが入ってるので、iPhone、iPadで見た時と、他で見た時で違うんですよ。あのへん実は僕、Appleのやり方があんまり好きじゃなくて。それはみんながきちんと見られるようにデータ公開して、サービスも実装してもらって、ってやらなきゃいけないんじゃないの、とは思いますね。
……ということを言うと、Appleは「いや、きちんと配慮してアウトプットしてるから」とか言うんだけど、その配慮を俺は知らん、という。
小寺 はははは(笑)。見たことねえな、その配慮は。
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