「取り急ぎお礼まで」は失礼? メールマナー巡り、ネットで議論に
メール文末の「取り急ぎお礼まで」は失礼な言い方と主張するツイートが賛否両論を呼んでいる。ネット上の議論をまとめてみた。
メール文末の「取り急ぎお礼まで」は失礼な言い方――こんな意見を提唱するツイートが賛否両論を呼んでいる。発信者は学生から届いたというメールを例に挙げながら、「本来は『略儀ではございますが、まずはメールにてお礼申し上げます』と表現すべき」という意見だ。
このツイートに対し「学生や新人にはちゃんと伝えようと思った。ありがとうございます」「勉強になりました」「今気付けて良かった」などの声が上がる一方、「失礼な言い方なのか?」「丁寧すぎるビジネスメールはあまり意味ない。また新たな失礼が生まれないか」などと意見を疑問視する声も上がった。
発信者は「『取り急ぎ』自体は相手を選ぶ言葉であり、後日別途説明をするといった意味がある。親しい方で後日説明をするのであれば問題ない」とも説明しているが、中には「日本秘書協会のテキストのお礼状の例文に表現として出てくる」「(国語辞典の)新明解に『取り急ぎお礼まで』が載っている」など具体的なエビデンスを示し、反論する人もいた。
辞書編さん者「丁寧な礼状でも『取り急ぎお礼まで』は常用される」
さまざまな意見が飛び交う中、日本語学者で辞書編さん者の飯間浩明さんが議論に参戦。飯間さんは「三省堂国語辞典」の編集委員を務める人物。過去には「ゆるキャラ」の採用や、「鉄板」に意味に「失敗するおそれがない様子。最強」という用例の追加に関わるなどネット上で使われる言葉を積極的に辞書に採用することから“言葉ハンター”とも称される。
飯間さんは自身の公式Twitterアカウントで「(『取り急ぎお礼まで』を)失礼というのはかわいそうだなと思う」と投稿。「丁寧な礼状でも「取り急ぎお礼まで」は常用される」と指摘した。
飯間さんによると「「取り急ぎ(取りあえず)御礼まで」は昔の手紙の決まり文句で、戦前までの手紙文では普通に使われたという。実際、年下の人物から渋沢栄一に送られた手紙にも「先ハ不取敢御礼迄(まずはとりあえずおんれいまで)」という部分があった他、夏目漱石が年上の人物に送った手紙にも同様の表現が見つかったという。自身に届いた過去5年間のメールを見返しても、研究者や記者などの多くが「取り急ぎお礼まで」を使っており、「私も違和感を持ったことはない」と飯間さん。
こうしたことを踏まえ、飯間さんは「普通の社交上のメールでは『取り急ぎお礼まで』で十分だ」と結論付けた。「『何とぞよろしくお願い申し上げます』と続けることで、より丁寧になる」とも指摘した。
時代で変化する日本語、“正しい”とは何か
言葉は生き物のように意味が日々変化している。記者が思い浮かんだものでも、例えば、ふさわしいなどを意味する「適当」という言葉は、「テキトーに答える」のように「雑に対応する」のようなニュアンスでも使われている。また、直後に否定語が来るはずの「全然」という言葉も、最近は「全然OK」などのように肯定表現とともに使われている。
言葉の意味が変化することに対する批判があるかもしれないが、コミュニケーションの基本は相手との意思疎通が図れる点にあると考える。読者の皆さんはどう判断するだろうか?
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