「少年ジャンプ+」編集長に聞く“バズるWeb漫画”の方程式「怪獣8号」「ダンダダン」「SPY×FAMILY」の共通点とは(2/2 ページ)
「怪獣8号」「ダンダダン」「SPY×FAMILY」「ゲーミングお嬢様」などの人気作を掲載する集英社の「少年ジャンプ+」。ヒットするWeb漫画を生み出す秘訣は何なのか、編集長の細野修平さんに聞く。
「ページ制限なし」をフル活用、ジャンル問わず積極掲載でヒット狙う
ただし少年ジャンプ+編集部では、明るい作風を持つ作品を優先して掲載しているわけではない。むしろ作風にこだわらず、編集者が面白いと判断した作品を積極的に掲載することで、新しいヒットにつなげる体制を取っているという。
「Webの場合、雑誌と違って紙面やページ数に制限がないため、いろいろなジャンルや作風にトライしやすく、作家も自由にネームを作れる。編集部では、編集者それぞれが独自の視点でさまざまな切り口の漫画に挑戦するよう促している」
こういった考え方から、少年ジャンプ+では連載だけでなく、読み切り漫画も積極的に掲載する方針だ。直近1年間で掲載した読み切り漫画の数は300本以上。中には「ルックバック」(8月12日時点で閲覧数560万)、「腐女子除霊師オサム」(同120万)などのヒット作もあった。
「年に何百本もの読み切りを載せるのは、紙幅の都合で紙の雑誌では難しい。連載作品においても、デジタル媒体では紙幅の制約がないので『この作品を載せるために他の作品を終わらせなければいけない』といった判断をする必要がなく、新人作家や新連載を試しやすい」
さまざまな作風の漫画を掲載するための取り組みは他にもある。その一つが新人作家の発掘だ。少年ジャンプ+編集部では「ジャンプルーキー!」といった漫画の投稿・公開サイトを運営しており、優秀な作家の漫画は少年ジャンプ+本体や、「週刊少年ジャンプ」にも掲載する──という体制をとっている。
ジャンプルーキー!ではさらに「お仕事漫画賞」や「縦スクロール漫画賞」など、テーマに沿った作品を募る漫画賞も実施している。細野さんによれば、この漫画賞でもさまざまなテーマを設定することで、集まる作家や作品の幅を広げているという。
「アナログ原稿限定の漫画賞や、他誌でボツになってしまったネームを対象とした漫画賞などを実施してきた。特にアナログ原稿限定の賞は、当初『若い子はみんなデジタル作画だろうから(募集が)少ないだろう』と思っていたが、予想に反して若い作家からの投稿が多くて驚いた」
「バズってもその場限りで終わらせない」工夫とは
Web漫画の特徴を活用し、オリジナル漫画を多数掲載することでヒットにつなげる少年ジャンプ+。作風や掲載本数の工夫だけでなく、SNSで作品が注目を集めた際に、それを実際の閲覧へつなげる仕組みも用意している。
「初めてスマホアプリをインストールしたユーザーは、(少年ジャンプ+の)オリジナル漫画であれば全ての有料話を一度だけ無料で読めるよう、2019年にサービスをリニューアルした。とにかく読んでもらわないと意味がないので、バズってもその場限りで終わらないようにしている」
デジタル媒体ならではの悩みや目標も
一方で、デジタル媒体ならではの悩みもあるという。一つは、ページ数に制限を設けず、自由な作品作りを勧めることで、逆に戸惑う作家や編集者が出ることだ。
「若手作家の場合、ページ数に制限がないことで、逆にネームをどう作ればいいか分からなくて大変という声も聞いている。漫画には制限があるからこそ生まれるテクニックもあるので、若手の編集者には注意するよう呼び掛けている」
逆に、デジタル媒体で毎日漫画を掲載するからこそ見えてきた目標もある。
「SPY×FAMILYや怪獣8号、ダンダダンといった人気作の更新日は1日の閲覧数がその作品だけで100万を超え、アプリ利用者が増えるが、他の日はそこまでいかない。全ての曜日に閲覧数が100万を超えるヒット作を連載することを今後の目標にしている。現在は人気の漫画を優先的に表示するUIを採用しているが、ここも改善することでヒットを生み出す余地があるかもしれないと研究している」
「売れる漫画」ではなく「面白い漫画」で勝負
Webから人気作を送り出している少年ジャンプ+。細野編集長はWeb上での作品への評価方法について、独自の考え方があるという。
「Web漫画は(閲覧数などの)数値が計測しやすいため、こういったサービスの中には面白さより、売り上げを数値の目標にしているところも多い。少年ジャンプ+では漫画の面白さで勝負していきたい」
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