“玉”も“打つやつ”も全てARなエアホッケー 動的プロジェクションマッピングで:Innovative Tech
エアホッケーをAR化するに当たってこれまでできなかったこと。円盤を打つときに使う「あれ」。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
東北大学 橋本・鏡研究室の研究チームが開発した「MetamorHockey: A Projection-based Virtual Air Hockey Platform Featuring Transformable Mallet Shapes」は、ダイナミックプロジェクションマッピングを用いたAR(拡張現実)エアホッケーだ。パック(エアホッケーの円盤)と、プレイヤーが手に持ってパックにぶつけるマレット(スマッシャー)とのどちらも投影でダイナミックに動かせる。
光学式/ビデオ式のシースルーHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やダイナミックプロジェクションマッピングを活用したこれまでのARエアホッケーは、パックや周囲のエフェクトなどを画像表示するにとどまり、マレットは物理的なものを使っていた。プレイヤーが操作するマレットはパックより高速に動くため、その投影画像を低遅延で表示するのは困難だったと推測する。
今回のシステムではマレットもARで表現し、オーグメンテッドスポーツのレベル向上を目指す。
パックとマレットを低遅延で投影するため、同研究室が2018年に開発した、動く対象面上に追従し画像を投影するダイナミックプロジェクションマッピング技術「A Full-Color Single-Chip-DLP Projector with an Embedded 2400-fps Homography Warping Engine」を活用する。高速カメラと高速プロジェクターを用いるこのシステムは、数百fps以上で投影画像を表示できるため、素早く動いている対象面にぴったり張り付いているかのような投影が行える。
今回は、プレイヤーが手に握ったタッチペン状のポインティングデバイスにマレットの画像を追従投影した。ポインティングデバイスに搭載した赤外線(IR)LEDが発する光をテーブルの下に設置する高速カメラで追跡し、DMD(Digital Micromirror Device)搭載のプロジェクターで約420fpsで投影する。
プレイヤーがポインティングデバイスを素早く動かしても追従し、適切なマレット画像を低遅延で表示し続ける。プレイヤーはポインティングデバイスとマレット画像がズレたと感じず、違和感なくプレイが行える。
このシステムではマレットの形状や大きさを自由に変えられるため、エアホッケーを本来のゲームデザイン以上に拡張できる可能性がある。例えば、マレットのサイズが大きいほどゲームは簡単になるため、プレイヤーの習熟度に応じてサイズを変更する、ゲーム中に獲得したポイントや失ったポイントに応じてサイズや形状を変更するなどが考えらえれる。
マレットの形状は三角や星といった図形だけでなく、フリーハンドで描くスケッチでも作成可能なため、ロボットアームのような形状でパックを囲い込んだり、バットのような形状を回転させて野球のように打ったりすることもできる。
ロボットアームのようなマレット形状でパックを囲い込んでいる様子(左)バットのようなマレット形状で回転させて跳ね返す(中央)ポインティングデバイスの周囲を常に回るアニメーションが適応され、当たる箇所と当たらない箇所の動的要素がゲームの難易度を上げている(右)
静止画像だけでなく動的な画像も投影できるため、アニメーションするマレットも作成できる。例えば、ポインティングデバイスの周囲を回転する、パックに当たるとマレットの色や形状が変化する、パックと同じ形状ならヒットし、異なる形状だと通過して当たらないといったことも可能だ。
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