開発者の「記者イジメ」に遭いながらもそのマシンが欲しくなった、その背景にある熱い物語:【新連載】西川善司の「日産GT-Rとのシン・生活」(3/4 ページ)
IT系ライターの西川善司さんはクルマ愛好家でもあり、スポーツカーに関する記事も執筆している。そんな西川さんが手に入れることになった最新スポーツカー「GT-R nismo Special Edition」を切り口に、これからのクルマのものづくりを解き明かしていく。
ブランド力とそこに秘められたナラティブ性とは?
発表会でいじめられた筆者ではあったが(笑)、水野氏がそこで語った話は相当に興味深く、大きな感銘を受けた。後に、同氏への単独インタビューなどもさせていただき、その衝撃はさらに強まっていく。このあたりの詳細は回を改めていずれお話しすることとしたい。
さて、ここでちょっと話をあえて脱線させる。
自動車に限らず、多様な商品を選ぶ際、決め手になるのはなんだろうか。
その多くは「スペックと価格」のバランスということになるかと思う。
実際、「値段の割には安い製品」は「コストパフォーマンスがよい」と判断され、売れる。
しかし、世の中、「絶対的な価格」が高くなってくると「コストパフォーマンスの概念」が通用しづらくなってくる。「高価だけど、そのスペックを考えればお買い得」…というのはよく聞くキャッチフレーズだが、なかなかそれを聞いただけでは購入への踏ん切りはつかない。
もちろん富裕層になれば「絶対的な価格」の評価軸の基準目盛りが上に上がってくるので、「コストパフォーマンスの概念」をそのまま高価格帯にスライドして判断できる可能性は高いが、多くの人にとってはそうではない。
では、なぜ、同じ機能を果たす安い製品が別にあるのに、人々はあえて高価な製品を買うことがあるのだろう。
著名ブランドのバッグや腕時計などはその最たる例だろう。
そのブランドのバッグや腕時計を持つことで「他の人に自分が所有していることを自慢できる」「憧れのブランド品だから手に入れたい」などなど、細かい理由には「人それぞれ」かもしれないが、ひっくるめていえば「所有することで心が満たされるから」ということに集約されると思う。もちろん、商品が提供する機能自体にも納得のいくレベルの高さが伴っている必要はあるだろうが。
では、その「ブランドとは一体なんなのか」という話になってくると思うのだが、筆者の私見だが「そこに物語性があるかどうか」が判断基準になっていると考えている。
最近流行の言葉でいうならば「ナラティブ(Narrative)かどうか」という感じだろうか。
物語性……より具体的にいえば「作り手の思い/こだわり」「歴史や伝統」「開発にまつわる逸話」といった辺りになるだろうか。
人気の著名ブランドにはだいたいそういうナラティブな要素があるものだ。
筆者のかつての愛車、RX-7の基幹部位であるロータリーエンジンには、まさにそうした物語性が詰め込まれていた。ロータリーエンジンの話は始めると長くなるので本稿では軽く流すが、通常のレシプロエンジンとはメカニズムも素性も異なるロータリーエンジンの量産化に漕ぎ付くまでには、マツダの開発陣の興味深い「挑戦と克服」の物語がある。筆者がRX-7を購入した要因の1つは、まさにそこにあった。
筆者は、そうした「物語性」に引かれ、S660を2016年に購入している。S660には「ホンダ社内開催された新商品提案選考会に、当時入社して間もない22歳の新人の椋本陵氏が応募したところ、そのアイデアが優勝。その後、製品化が決まり、同氏が最年少の車両開発責任者に就任して作り上げた」という有名なエピソードがある。筆者がS660購入した理由の1つには、この物語性の魅力があった
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