嗅覚は認証に使えるか? 香りとパスワードを一緒に記憶する実験:Innovative Tech
英Brunel University Londonらの研究チームは、香りとパスワードをひも付け、人間がどれだけ匂いで記憶できるかを検証し、嗅覚が認証システムとして効果的かを調べた。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
英Brunel University LondonとUniversity of Greenwich、ヨルダンのMutah Universityの研究チームが執筆した論文「When Scents Help Me Remember My Password」は、香りとパスワードをひも付け、人間がどれだけ匂いで記憶できるかを検証し、嗅覚が認証システムとして効果的かを調べたものだ。
従来の認証プロセスではテキストやオーディオ、または画像からなる視聴覚データを使っている。他方で、セキュリティを強化するために、指紋や虹彩などのバイオメトリクスベースのセキュリティメカニズムの活用も進んでいる。
しかしこれらの認証プロセスは、触覚や視覚、聴覚の3つの感覚しか使われていない。そこで研究チームは、残りの感覚である味覚や嗅覚も認証プロセスを強化するために導入できると考えた。日常生活でも、あの時の匂いや味が過去の思い出とひも付く経験をした人もいるだろう。
この論文では、嗅覚に着目し、香りとそれに関連する言葉に頼る新しい認証アプリケーション「PassSmell」を開発し、その有効性を検証した。実験では、提示される香りに対して、連想する単語2つを正しく選択できればログインできる仕組みを構築した。
健康な42人を被験者に、香りと言葉を組み合わせたバージョンと、香りなしで言葉のみのバージョンの2種類のログイン方法で検証、比較した。被験者はラップトップの前に座り、前に設置してある放香器から匂う香りを参照する。
被験者には、4種類の香り(ミント、オレンジ、ラベンダー、ローズマリー)と、その香りで連想する、もしくは連想しない言葉リストの中から単語を選び、その関係性を記憶してもらった。
ログイン時は香りに対して、16個の単語がランダムに提示され、その中から2個の単語を選択するように促す。2個中、どちらか1個を間違えば失敗となる。どちらが失敗だったのかは知らせない。3回のログイン失敗でロックがかかるようにし、ログイン時間や成功回数を記録した。
その結果、香りを使うことで、全体のログイン時間や認証に必要な単語の検索に要する時間、ログイン精度(成功した試行回数)に関する被験者のパフォーマンスが大幅に向上した。さらに、被験者のパフォーマンスは、この香りシステムを使ってログインを繰り返すほど精度が向上した。この結果は、嗅覚情報が認証システムに効果的であることを示唆する。
Source and Image Credits: Anas Ali Alkasasbeh, Fotios Spyridonis, and Gheorghita Ghinea, “When Scents Help Me Remember My Password”, ACM Transactions on Applied Perception, Volume 18, Issue 3, July 2021, Article No.: 16, pp 1–18, https://doi.org/10.1145/3469889
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