見えないモノを写せるカメラ 曲がり角に隠れた物体や頭蓋骨内の血管などが撮影可能:Innovative Tech
米ノースウェスタン大学と米南メソジスト大学の研究チームは、その場では目に見えないものを写すことができる高解像度カメラを開発。曲がり角に隠れた物体や頭蓋骨内の血管などが撮影できるという。
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米ノースウェスタン大学と米南メソジスト大学の研究チームが開発した「Fast non-line-of-sight imaging with high-resolution and wide field of view using synthetic wavelength holography」は、その場では目に見えないものを見ることができる高解像度カメラだ。
このカメラは、曲がり角や人の頭蓋骨、皮膚のような「散乱媒体」(光の進行方向を変える物体)で隠蔽されて、その先の物体が通常では見えない環境下でも、その先の物体を正確に復元できる能力を持つ。
散乱媒体の背後にある物体を撮影する分野はこれまでも研究されており、「Non-Line-of-Sight」(NLoS)イメージングと呼ばれている。NLoSイメージングは、レーザー光を放射し散乱媒体に反射後、その先にある物体に反射し再び散乱して戻ってきた光をカメラで捉え、そのデータを分析することでその先にある本来は見えない物体を予測するToF(Time of Flight)をベースとした仕組みだ。
しかしこれまでは、視野角が狭く、時間分解能(どれくらい短い時間で撮影できるかを示す指標)と空間分解能(どれくらい小さいものまで描画できるかを示す指数)も低く、ラスタースキャン(画像を表示するための走査方式)や広いプロービングエリア(調査する範囲)を必要とし、課題も多かった。
これらの課題に挑戦するため「Synthetic Wavelength Holography」と呼ぶ技術を開発。この技術は、ホログラフィーの表現力と散乱光のスペクトル相関を利用してToFベースのNLoSイメージングを行う。これまでになく散乱の悪影響を回避し、不明瞭なオブジェクトのホログラムを高解像度に表現することで実行する。
これにより、視野角はほぼ半球状と広く、ラスタースキャンを必要とせず、プロービングエリアも小さく(58mm×58mm)、それでいて時間分解能(46ミリ秒以内)と空間分解能(サブミリの解像度)が高い精度で復元できるという。これは狭い場所にある小さな物体や、広い場所にある隠れた物体、速く動く物体などを狭い範囲で捉え、高解像度で撮影できることを意味し、他のNLoSイメージング手法と比べても高い精度を示した。
この手法の具体的な活用方法として、航空機のエンジン内などの狭い空間にある欠陥や曲がる先の隠れた物体の検出、頭蓋骨を通して脳血管を生体を傷つけずに撮像、胸部から心臓の不整脈を識別するなどが挙がった。
角を曲がった先を見ることと、体内の臓器を撮影することは異なる課題のように思えるが、光が物体に散乱する点では、皮膚内も壁も散乱媒体になるため理屈は同じといえる。そのため、散乱媒体があれば使えるカメラとはいえ、上記4つの活用シナリオ以外にも多数の使用方法が考えられるだろう。
Source and Image Credits: Willomitzer, F., Rangarajan, P.V., Li, F. et al. Fast non-line-of-sight imaging with high-resolution and wide field of view using synthetic wavelength holography. Nat Commun 12, 6647 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-26776-w
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