ある朝起きたら「変身」していた! メタバースとアバターの関係から見る「これは自分じゃない」問題:【新連載】メタバースはじめました(3/3 ページ)
メタバースではどんな未来が生まれつつあるのでしょうか。そんなことを紹介していく新連載、スタートです。
自由な自己表現が許されるVRChatやcluster
暗黙のうちに、現実の自分の姿にアバターを合わせることが期待されているMetaのサービスに対して、VRChat やclusterといったソーシャルVRサービスの場合は限りなく自由にアバターを設定できます。これらのサービスではアバターはその人を特定するための記号の役割ではなく、気分によって見せる姿を選ぶことを目的としているからです。
VRChatやclusterではユーザーは提供されている無料アバターを選択できますし、ピクシブのBoothといったマーケットサイトで購入したVRM形式のアバターファイルを自分で改変して持ち込むことも可能です。
気に入った素体(アバターの身体)に好みの服やアクセサリーや髪型、あるいは動物の耳や尻尾といったオプションも加えて自分だけのアバターを作成することも、その道の専門家がいるほど深い世界となっています。
これらのサービスでは見た目を自在に変えられるため、TPOによって姿を着替えることも多くなります。たとえば私は友人とくつろいで会話している際は身長の低い少女のアバターを使っていることが多いですが、DJイベントに参加して気分をアゲるときの姿、特定の趣味の人と行動するときの姿など、いくつかの好みのアバターをそろえています。なかには猫、トイレットペーパー、浮遊する霧といった概念的なアバターもあります。
こうなると、アバターは現実の自分との対応付けは希薄となり、むしろ自己表現に近くなります。それでも、友人は私のアバターをみたときに私だと認識してくれますので、自分自身がそこにいる感覚=自己投射性はむしろMetaのサービスのそれよりも強いほどです。
現実とメタバースを対応させ、現実の姿や動きや表情を仮想空間内にもちこもうとしているMetaと、ゲームのキャラクターのようにいかなる姿も許しているので見た目が混沌とするかわりに自己表現が豊かなVRChatやclusterといったサービスでは、アバターが持つ方向性が真逆といっていいのです。
それでも両者に共通しているのは「私の見た目はこうだ」というユーザー側の思い入れです。Facebook上でアバターの見た目が勝手に変化したときに多くの人が違和感を覚えたのは、アバターが自分の分身であると感じている私たちの暗黙の了解=自己投射性が裏切られたからなのです。
実はこの話題は、仮想空間内に限られません。私たちはアバターだけでなく、SNSのアイコンやID、ハンドル名といった情報でもさまざまな自己表現をしていて、そのアイコンや名前で認識してほしいと考えています。これも自己投射性の芽生えといっていいものです。
いままで一度もソーシャルVRサービスを体験したことがない人であっても、ネット上でどのようなアイコンや名前で認識してほしいかと考えるとき、私たちは「社会化するネット」、つまりはメタバースの入り口に立っているのです。
関連記事
- 「ウチもメタバースに参入してみるか」を成功させる3つのポイント 日産の事例から探る
メタバース、VRへの企業参入が相次いでいる。どうしたら既存のVRコミュニティーに受け入れられるのか。日産自動車の事例で紐解いた。 - PS5でMatrixメタバースにダイブしたら「Unreal Engine 5」の恐ろしさを垣間見た話
Epic Gamesの「The Matrix Awakens: An Unreal Engine 5 Experience」を体験して考えた、ゲームエンジンの現在と未来。 - 「日本メタバース協会」の違和感 “当事者不在”の団体が生まれる背景
12月7日に設立が発表された「一般社団法人日本メタバース協会」。設立したのは4社の暗号資産(仮想通貨)取引業者であることから、「仮想通貨とメタバースは関係ないのでは」という声が多く聞こえる。この話の本質はどこにあるのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.