全て“当たり”にするこだわり、刀鍛冶を思わせるブレーキ焼き入れ――「日本のものづくり」マインドが凝縮されたGT-R:西川善司の「日産GT-Rとのシン・生活」(6/6 ページ)
スーパーカー的スポーツ車と一般車を混流生産するメリットなど、日産GT-Rのものづくりの秘密を解き明かします。
日本のものづくりに残された価値とは?
昨今、自動車の製造拠点がどんどん日本国外に移転していく流れの中にあって、GT-Rのような「こだわりの車両製造」が、10年後の日本にどのくらい残っているかどうかは見通しが難しくなってきている。
ここまで紹介してきたような製造上のエピソードの数々からは、昨今では昔ほどは聞かなくなった「Made in Japanの誇り」を知ることになり、筆者はさらなる興味を奪われることとなったのである。また、同時に、筆者に「多少、無理をしてでも、ラスト“Made in Japan”の成果物を自分で所有したい」と強く思わせるきっかけにもなっていった。
かつて、当時の開発責任者の水野氏が筆者にこう言っていたことがある。
「効率やコスパが重視される現在の世の中で、日本のメーカーが日本でわざわざものづくりを行うことの価値って、“日本人ならではのものづくりに対する姿勢”に見いだすしかないんですよ。具体的には“自分を捨てでもお客さまに喜ばれるものを作る”という多くの日本人が持つ価値感、道徳観ですかね。“人の悦び”を“自分の悦び”に変えられる気質、と言い換えてもよいかもしれない。いわば、おもてなしの精神ですよ」
ちなみに、この「おもてなし」のキャッチフレーズは、2013年9月に滝川クリステルさんが、アルゼンチン・ブエノスアイレスで2020年夏のオリンピック開催地を決めるIOC総会で使ったことで有名になったが、筆者がこの言葉を水野氏から聞いたのは2013年5月だったので、ものまねではない。逆に滝川クリステルさんが水野氏と接触したとも考えられないので、結局、こうしたキーワードが異なる業界から自然と出てくるのが「日本の文化」ということなのかもしれない。
次回は、富裕層でもない普通の筆者が、どのようにGT-Rを購入したのかについて見ていくことにしたい。
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