「非デスクワーカー向けSaaS」が今アツい? 「数年前まで無風だった」──CEOが語る背景:知ってる? 大手企業も注目する「デスクレスSaaS」の世界(1/2 ページ)
スタートアップの参入や大手企業の出資も増え、盛り上がりを見せる「デスクレスSaaS」。これまで“空白地帯”だったにもかかわらず、今になって利用が増える背景とは。デスクレスSaaSを提供するカミナシのCEOに解説してもらった。
SaaS業界で注目を集める「デスクレスSaaS」という言葉をご存じだろうか。オフィスワークを支える一般的なSaaSに対し、ホテルや工場、飲食店といった現場で働く「ノンデスクワーカー」の業務をデジタル化するSaaSを指す言葉だ。
日本には約3900万人のノンデスクワーカーが存在するといわれている。これは日本の就業人口6700万人の約60%に当たる。ユーザーとして狙える人口が多いからか、近年はノンデスクワーカーをターゲットとするSaaSスタートアップの参入・成長が目立っている。
例えば、不動産・建築業界向けSaaSを提供するTHIRD(東京都新宿区、2015年設立)は20年8月、東急不動産ホールディングスなどで構成されるファンドから約2億4000万円の出資を受けた。建設支援SaaSを提供するフォトラクション(東京都中央区、16年設立)も、21年8月にGMOグループの投資会社などから7億6000万円の出資を受けるなど、大手企業からの注目も集まっている状況だ。
今まで目立たなかったデスクレスSaaS市場が、ここにきて注目を浴びているのはなぜか。20年にIT・ネット関連企業の経営者が集まるカンファレンス「Infinity Ventures Summit」内のビジネスコンテストで優勝したカミナシ(東京都千代田区)の諸岡裕人CEOに解説してもらった。
(編集:ITmedia NEWS 吉川大貴)
そもそもデスクレスSaaSはどんな市場?
著者:諸岡裕人
株式会社カミナシCEO。航空会社のアウトソーシング業を営む家業での実体験を基に、工場や店舗での紙管理による非効率を減らす現場改善プラットフォーム「カミナシ」を開発。日本の就労人口の半数以上を占めるノンデスクワーカーの働き方を変えるべく現場DXを推進している。
デスクレスSaaSは、飲食や小売、警備やビルメンテナンス、工場や物流、ホテルや交通機関などで働く人に向けたサービスです。これらの現場では、PCやスマートフォンなどを常に利用できるわけではなく、紙やデジカメ、ハンコやファクシミリを中心とした働き方が主流なところもあります。そこへクラウドやスマートフォンアプリを活用したソリューションを提供し、効率化を図ることがデスクレスSaaSの狙いです。
カミナシの概算では、21年2月時点で22兆6000億円規模の市場があり、このうち現実的に狙えるのは3兆5000億円ほどと見込んでいます。ただし、これまではSaaS事業者とノンデスクワーカーの両方に課題があり、巨大な市場にもかかわらず手つかずで残っている状況でした。
手つかずの理由は「現場のSaaS受け入れ態勢に不足」
まずSaaS事業者にとっては、サービス開発の難易度がオフィスワーカー向けのSaaSより高いという問題がありました。
オフィスワークの場合、仕事場所には常にインターネット環境があり、従業員のITリテラシーも比較的高く、PCで利用できる製品があればサービスとして提供できます。一方、ノンデスクワーカーが働く現場はWi-Fiが整備されていないこともあります。
これまで紙とペンで仕事をしていた人たちには、業務用アプリの使い方を教えなければなりません。PCが苦手な人のために、スマホやタブレット向けのアプリを開発しなければいけないケースもあります。SaaS事業者にとっては自社サービスを使ってもらうために、現場の作業手順を全て変更してもらうのも大きな労力が必要になります。
見方を変えれば、これらはノンデスクワーカー側の課題でもありました。デジタル技術を受け入れる準備が追い付いていなかったからこそ、今日まで市場が手つかずのまま残っていたといえるでしょう。
個人の経験ですが、カミナシの前身となるデスクレスSaaSを提供していた18年当時は、Webサイトからに問い合わせをもらって商談に行っても「うちの現場はスマホは持ち込み禁止です」「クラウドは本社の許可がおりないので、オンプレミスしか対応できません」というコメントのオンパレード。当時、商談は月10件程度でしたが、およそ半分でこのような反応がありました。
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